“汚部屋”を退去しようとしたら、とんでもない費用を請求された──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者は10年近く住んだ築50年のアパートを退去することにしました。住んでいたのは入居2年前にリフォームされた1K10畳ほどの部屋ですが、数年ほど精神的な病を患っていたこともあり、ゴミが散乱する「汚部屋」になっていたそうです。
退去前に片づけたものの、玄関やトイレ・風呂場は大きく汚れていたため、退去の際に一定の費用がかかることは覚悟していましたが、見積もりで提示された金額に驚いたそうです。主な費用として、フローリングおよびユニットバスの交換が全額負担で約130万円だったほか、クロス(壁紙)の貼り替えも全額負担で約13万円ほど請求されました。
相談者としては、部屋本体はそれほど汚れていなかったと訴え、「汚れていたとしても全額負担はおかしいのでは」と納得がいかないようです。管理会社や大家に減額を求めることは可能なのでしょうか。不動産問題に詳しい白土文也弁護士に聞きました。
●「通常損耗についても賃借人に修繕義務」特約ある場合も
──賃貸アパートを退去する際、汚れていたフローリングおよびユニットバス、クロスを替える必要があるとしたら、通常はどのような費用計算になるのでしょうか
賃借人は、退去するに際して賃借物を原状に回復する義務を負っていますが、通常の使用による損耗や経年変化については原状回復義務を負わず、それを超える損耗ついて原状回復の義務があるとされています。
通常損耗についての修繕費用は賃料に含まれていると考えられるためです。
そのため、フローリング、ユニットバス、クロスの汚れや傷みが通常の使用による損耗や経年変化の範囲内であれば、賃借人は費用を負担する必要はありませんが、それを超える損耗がある場合は、賃借人がその修繕費用を負担するということになります。
例えば、クロスの耐用年数は一般的に6年程度とされています。
本件では入居の2年前にリフォームし、その後約10年近く住んでいたということですので、一般的なクロスの耐用年数を超えています。
もっとも、賃借人側の問題で「汚部屋」になっていたということですので、通常損耗とは言えず、費用負担せざるを得ない可能性もあるでしょう。
なお、賃貸借契約において、通常損耗についても賃借人に修繕義務がある旨の特約が存在する場合がありますが、修繕の範囲や負担額が具体的に定められている等の一定の要件を満たしていない場合は無効とされます。
国土交通省から「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が出ており、費用負担に関する一定の基準を示していますので参考にすると良いでしょう。
●裁判などでの費用倒れ避けるためにも「記録残して話し合いに備える」
──住人側が退去時にかかる費用が高すぎると考えた場合、管理会社や大家に対し、どのように対応すべきでしょうか
前提となりますが、退去時に管理会社や大家と一緒に立ち合い、状態を確認し、写真やメモなどに記録を残すべきです。
その上で、管理会社や大家からの費用請求に対しては、その内訳と根拠を書面で説明するように求めると良いでしょう。
内容を精査し、通常損耗の修繕費用については支払いを拒否すべきです。話し合いで解決できない場合は民事調停や訴訟という解決手段がありますが、弁護士に依頼すると費用対効果が見合わない場合も多いので、なるべく話し合いで解決することが望ましいと思います。
そのためにも、退去時のみならず、入居時の状態も写真やメモで記録を残しておき、入居時と退去時の状態を比較して説明できるように備えておくことが望ましいでしょう。
【訂正】 当初、相談者がリフォームした時期を「今から2年前」という前提で解説していましたが、「入居する2年前」という事情だったため、該当する部分の記述を改めました。