「長い間、騙されていました」
こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられている。
相談者の女性は、マッチングアプリで「バツイチ同士」として知り合った男性と交際を始めた。
交際は長年に及び、途中からは同居して、周囲には家族として紹介されていたという。
ところが最近、男性の戸籍を確認する機会があり、離婚歴がないどころか、現在も婚姻中であることがわかった。
相談者は関係を解消し、住まいを出ることを決めた。
家族まで巻き込み、独身を偽装されたら気づくことはかなり難しいだろう。
独身だと信じて過ごした年月について、慰謝料を請求できるのか。引っ越し費用やこれまでの生活費はどうか。男女問題にくわしい竹村公利弁護士の監修による解説をお届けする。
●独身と偽って交際するのは「貞操権の侵害」
──独身だと偽られて交際・同居していた場合、相手に慰謝料を請求できますか。
既婚者だと知っていれば性的な関係を結ばなかったといえる場合は、請求できます。既婚であることを隠して交際し、性的な関係を結ぶ行為は、相手の性的自己決定権(貞操権)を侵害する不法行為にあたります(民法709条)。
「気づけたはずだ」と反論されても、その誤信が相手の嘘から生じている以上、責任がなくなるわけではありません(最高裁1969年9月26日判決)。
過失の程度によっては慰謝料額が減額(過失相殺)される可能性はありますが、相手の賠償責任自体がゼロになるわけではありません。
積極的に「バツイチ」だと偽り、長年にわたって同居し、周囲に家族として紹介していた事情は、いずれも増額に働くと考えられます。
●生活費の清算は難しいが、引っ越し費用は請求できる
──これまでの生活費や、引っ越しにかかる費用も請求できますか。
生活費と引っ越し費用を分けて考える必要があります。
生活費が十分支払われていなかったとしても、これまでの生活費の請求は難しいかもしれません。相手に法律上の配偶者がいる場合、この関係が法律上の「内縁」として保護されるのは、その婚姻が形だけのものになり、事実上の離婚状態にあるときに限られます。
内縁と認められなければ、夫婦を前提とした生活費(婚姻費用)の分担や財産分与は求められません。
一方、引っ越し費用は請求の余地があります。相手の嘘によって生じた必要かつ相当な範囲の出費(引っ越し費用や契約解消費用など)は、不法行為による損害として請求できる可能性があります。