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家賃払わず“20年間タダ”で同居してた義母に怒りの要求「未払い分、全額支払ってもらえますか?」
画像はイメージです(Fast&Slow / PIXTA)

家賃払わず“20年間タダ”で同居してた義母に怒りの要求「未払い分、全額支払ってもらえますか?」

夫婦の持ち家に住む義母に家賃を払ってもらいたい──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者は夫婦の共有名義で二世帯住宅を約20年前にローンで購入。その際、一緒に住むことになっていた義母と一定額を家賃として払うと口頭で約束し、同居をスタートさせました。

その後、夫婦仲が悪化し離婚話も出る中、義母が家賃を一切支払っていないことが判明。相手が義母ということで妻が受け取っていると思っていたのか、相談者は長年気づきませんでしたが、あらためて請求したいと考えているようです。

同居から約20年とかなり時間が経過していますが、未払いの家賃を全額請求することは可能なのでしょうか。池田誠弁護士に聞きました。

●口約束も有効だが「証明は容易でない」

結論から申し上げると、そもそも賃貸借契約が成立しないか、仮に認められても全期間の賃料を請求することは難しいと思います。

まず、口約束であっても、法律上、賃貸借契約は有効に成立します。ただ、現実に、どうやってその「口約束」があったことを証明するのかが重要な問題です。

もちろん、本人が賃貸借契約の存在を認めているなら良いのですが、ご相談の件では、既に夫婦関係も悪化しており、義理の母親とも対立関係にありそうですから、その義理の母親が賃貸借契約の成立を認めてくれることは期待できそうにありません。

そうすると、賃料の請求を行う側で契約が成立したことを証明しなければいけません。

具体的には、過去の一時期まで賃料を払っていたという事情が出てくることが一般的に多いかと思いますが、ご相談の件ではそのような事情もなさそうです。

その場合、たとえば、賃料の請求書を出していたことや過去の家計簿の中に義理の母親からの賃料収入を前提にした記載があることを挙げるなどする方法が考えられます。

ただ、同居から20年が経っていながら賃料の支払が過去に一度もないとすると、そういった事情を積み上げていっても、賃貸借契約の成立が認められる可能性は高くないと思います。

●賃貸借契約が成立していても「賃料請求できるか疑問」

仮に当初から賃貸借契約が成立していたことが認められたとしても、賃料を遡って請求できるかについては強い疑問があります。

まず、住んでいた間に、賃貸借契約から賃料の支払を請求しない契約(使用貸借契約)に変更になっていると考えられる場合があります。

たとえば、義理の母親の収入状況が同居期間中に大きく変わっているのに、それを知りながら、賃料を請求してこなかった場合などです。義理の母親が同居期間中に定年退職した場合などが良い例です。

そういった収入状況の大きな変化を知りながら、賃料の請求をしてこなかったとすれば、以後、無償で住むことを承認していたと評価される可能性があります。

なお、義理の母親が、賃料を支払わなくなって以降、家事や育児の一部を大きく担うようになった場合などでは、夫婦は、賃料に代わる恩恵を受けていたことになるわけですから、無償での同居を認めていたと考えられる可能性が高まると思います。

●時効で消滅しているおそれも…「財産分与で調整する余地はあるかも」

仮に契約が変更になったとまでは評価できない場合でも、無償で居住する権利(使用借権)を義理の母親が時効で取得したと評価できる場合も考えられます。その場合には、やはり、義理の母親には無償で今の不動産に住む権利が発生します。

また、上記のいずれにも該当しない場合でも、賃料債権は、消滅時効にかかるので、消滅時効を援用されれば、過去に遡って賃料債権がなくなり、消滅時効にかかっていない範囲でしか請求できなくなります。

現行の民法では、債権一般は、権利を行使できることを知ったときから5年で消滅時効にかかるとしていることから、5年より前に発生した債権は消滅時効を援用されれば消滅してしまうので、仮に賃料債権が発生しているとしても、直近5年分しか請求できないことになります。

なお、相談者の方は、現在離婚の話をしているということですが、離婚においては、夫婦間の財産の分与が問題となります。

財産分与は、「協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮」して分与額等を決めるものとされていますから、過去の賃料の請求が一部または全部できないとしても、義理の母親を無償で住まわせていたという事情をその「一切の事情」として考慮して、具体的な財産分与額を調整する余地はあり得ると思います。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

この記事は「みんなの法律相談」に寄せられた実際の相談をもとに、新たに弁護士の解説を追加して作成しています。

プロフィール

池田 誠
池田 誠(いけだ まこと)弁護士 にっぽり総合法律事務所
証券会社、商品先物業者、銀行などが扱う先進的な投資商品による被害救済を含む消費者被害救済や企業や個人間の債権回収分野に注力している下町の弁護士です。債権回収特設ページURL(https://nippori-law-saikenkanri.com/)

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