価値観やファッションの多様性もあり、入れ墨(タトゥー)に対する偏見は少しずつやわらいできていますが、それでも根強く日本社会に残っています。
その一つは職場です。弁護士ドットコムにも入れ墨に関する相談が寄せられています。
ある相談によると、面接や入社の際に「入れ墨の有無」はチェックされませんでしたが、入社後にあらためて服務規律を確認してみると「入れ墨禁止」と書かれたルールがあったそうです。
この相談者の場合、入れ墨が彫ってあるのは、服で隠れるところで、他の人に教えたりしていません。
いわゆる反社とも一切関係なく、業務に支障もないと思っていますが、もしバレてしまったときに解雇されないかと心配しています。法的にはどうなのでしょうか。
●解雇できるケースは「限定」されている
労働契約法で、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となるとされています。
今回のケースでは(1)職務規律が合理的であるかどうか、(2)服務規律が合理的といえる場合、相談者の入れ墨がこの服務規律にあてはまるかどうか、(3)服務規律にあてはまる場合、さらに解雇が権利の濫用とならないか――を検討することになります。
●業務上の支障をきたす入れ墨は「服務規律」の対象となりうる
詳細な検討はさておき、そもそも会社は、従業員のプライベートな事項について、一律に禁止することはできません。
仮にプライベートな事項を禁止するのであれば、何らかの形で、会社の業務に支障を生じるから、という理由が必要になります。
今回のように服務規律で入れ墨を禁止する趣旨は、必ずしも明確ではありませんが、普通に考えれば、入れ墨をしている人が社内にいる場合、それを見て不安を感じる従業員が出てくるなどして、会社の業務遂行に悪影響を及ぼすことが懸念されるからでしょう。
そうであるならば、入れ墨があれば、ただちに服務規律違反となるのではなく、あくまでも業務上の支障をきたすような入れ墨をしてしまった場合に限って、服務規律の禁止対象となるというべきです。
●業務上の支障があれば「服務規律違反」になるおそれ
入れ墨を周囲の人に「見えない部分」に彫っている場合、業務上の支障はありません。
また、周囲の人に「見える部分」に彫っている場合も、ファッションとしてのタトゥーと認識する人のほうが多ければ、業務上の支障はわずかでしょう。
いずれも解雇はできないと思います。
一方で、腕の目立つところに竜の彫り物があれば不安に感じる人もいる職場もあります。
業務上の支障があれば、服務規律違反となるかもしれません。それでも解雇まではやり過ぎだと思いますが、場合によっては、解雇もやむなしと判断されるリスクはあります。
●入社後に彫った場合のほうが解雇リスクが高い
今回のケースは入社前ということでしたが、これまで示した考え方にしたがえば、入社後に入れ墨を彫った場合であっても、解雇の対象とはならない場合があると思います。
ただし、入社後、明らかにそれまでに入れ墨はなかったのに、周囲の人に彫ったことがわかってしまうと、服務規律に堂々と違反している人がいるということが社内で知れ渡ることになります。
そういう意味で、会社の業務遂行に悪影響が及ぶという考え方はありうると思います。つまり、入社後に服務規律を知りつつ、入れ墨をするほうが解雇のリスクが高くなるということです。