プロボクシング元世界王者の薬師寺保栄被告人は、交際相手の20代女性を養子にするため、当時の妻に無断で養子縁組届を偽造したとして、有印私文書偽造・同行使などの罪に問われていると報じられています。
朝日新聞(2026年8月5日付)によると、名古屋地裁で8月5日、開かれた初公判で、検察側は、薬師寺被告人が当時の妻との離婚協議がまとまらない中、交際相手の女性に自身の財産を相続させるため、養子にしようとしたと指摘しました。
薬師寺被告人はその後、妻との離婚が成立したとしたうえで、「今後は養子縁組を解消し、女性と結婚したい」と述べたと報じられています。
●若い女性を「養子」にした後、「正式な妻」にしたい
実は、「交際相手に財産を残すため、いったん養子にして、妻との離婚や死別後に結婚したい」と考える高齢男性は少なくないようです。弁護士ドットコムにも、よく似た相談が寄せられています。
相談者は60代の既婚男性。妻とは長年、夫婦関係がなく、生活の大半を別々に過ごす一方、数年前から交際している若い女性がいます。
男性は、妻との離婚をめぐって時間を費やすよりも、妻の同意を得て交際女性を養子にし、自分の財産を相続できるようにしたうえで、妻が亡くなった後に「正式な妻」にしたいと考えているそうです。
交際相手を「養子」にして財産を残し、妻との離婚や死別後に養子縁組を解消して結婚する――。そんな「解決」は法律上、可能なのでしょうか。濵門俊也弁護士の監修のもと、解説します。
●一度「親子」になったら、離縁しても結婚できない
結論からいうと、相談者が考えている方法で交際女性と結婚することはできません。
民法では、養子縁組をすると、養子と養親、その血族との間に、血族と同じ親族関係が生じると定められています。
そして重要なのが、養親と養子の結婚を禁止する規定です。
民法736条は、養子と養親などについて、離縁によって親族関係が終了した後でも婚姻することができないと定めています。
これは、単に「養子である間は結婚できない」という話ではありません。一度でも養親と養子という関係になれば、その後に離縁して「他人」に戻ったとしても、婚姻禁止は残ります。
裁判例でも、養親子間の婚姻が禁止される理由について、実親子と同様の身分法上の秩序を維持するという「社会倫理的配慮」があると説明されています。
そのため、「将来はこの女性と結婚したい」と考えているのであれば、むしろ養子縁組をすることで、自ら結婚への道を閉ざすことになります。
●財産を残すために「親子」になる必要はない
男性の目的が、交際女性に自分の財産を残すことなのであれば、養子縁組以外にも方法はあります。
たとえば、遺言によって交際女性に財産を遺贈することは可能です。
もちろん、妻や子など一定の相続人には、最低限の取り分である「遺留分」が認められていますが、すべての財産を自由に交際女性へ渡したいのであれば、下手に養子縁組をしない方がいいです。生前贈与をする場合には、税金など別の問題が生じます。
それでも、「財産を渡したい」という目的のために、必ずしも養子縁組によって親子になる必要はありません。
むしろ、将来的にその交際女性との結婚を考えているのであれば、養子縁組は決定的な障害になり得ます。