温泉旅館に派遣される「女性コンパニオン」が、客と性的行為に及んでいるようだ。正直、関わりたくない——。温泉旅館につとめる従業員から、弁護士ドットコムにこんな相談が寄せられた。
相談によると、コンパニオンは宴席の接待だけではなく、閉め切った貸切風呂の中で、客との性的行為に及んでいる疑いがあるという。
相談者は「実質的にソープランドのようなことをしている」として、旅館や自身も罪に問われないかと心配しているのだ。
このような現状を「見てみぬ」フリを続けた場合、どんなことになるのだろうか。専門家に聞いた。
●「カギは客に渡せ」温泉旅館の指令
相談者によると、この温泉旅館では、派遣されてきた女性コンパニオン(いわゆるピンクコンパニオン/温泉コンパニオン)が客を接待しているという。
コンパニオンは、宴席での接待に止まらず、客と一緒に貸切温泉に入浴し、その中で「性的な行為をしていると思われる」(相談者)。
そのため、この旅館では、コンパニオンと客が貸切温泉を利用する際に、客にカギを渡すことを徹底しているそうだ。
「コンパニオンにカギを渡すと、旅館が売春場所の提供ということで、風営法に抵触する可能性があるからだと思います」(相談者)
温泉旅館の貸切風呂(8x10 / PIXTA)イメージです
また、コンパニオンと客が貸切温泉を利用中の場合は、2人の声が外に聞こえることのないように、その隣の温泉に客を入れるなという指示もされているという。
「売春をしているのはコンパニオン個人ですし、コンパニオンは当旅館の従業員ではなく、コンパニオン派遣会社の従業員です。しかし、当旅館は場所の提供をしており、コンパニオン派遣会社からもマージンを取っていて、黙認状態です。実質的にソープランドのようなことをしています。風営法スレスレ(違反?)状態です」
このような不安を漏らす相談者は、コンパニオン関連の仕事は「正直、やりたくありません」と悩む。
仮にコンパニオンが客相手に売春をしていた場合、それを黙認して貸切温泉を利用させていた旅館側にはどんな法的問題が考えられるのだろうか。従業員も罪に問われるリスクがあるのか。風俗営業法や売春防止法にくわしい林本悠希弁護士に聞いた。
●売春防止法では「場所を提供した」側も罰せられる
——コンパニオンが客と性的な行為に及ぶと知りながら、貸切温泉を利用させた場合、旅館側にはどのような問題が生じると考えられますか
「性的な行為=性行為」という場合、それはいわゆる「売春」(=対償を受け、または受ける約束で、不特定の相手方と性交すること)です。
風営法の問題ではなく、売春防止法の問題になります。売春行為には罰則があり、また、売春の場所を提供した者に関する罰則も規定されています(同法11条1項)。
同項には「情を知つて、売春を行う場所を提供した者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」との規定がありますから、今回の相談者が働く旅館についても同項の違反に問われる可能性が十分にあります。
さらに、これが業としておこなわれていると認められる場合には、さらに重い罪、「7年以下の懲役及び30万円以下の罰金」に処せられる可能性があります(同条2項)。
●旅館の「カギは客に渡した」との言い訳は通じるのか
——旅館は罰せられるのでしょうか
さて、相談内容から、旅館が罰せられる可能性があるかどうかを考えるうえで、最大のポイントは次の2点です。
(1)旅館がコンパニオン派遣会社からもマージンを取っており黙認状態
(2)コンパニオンと客が貸切温泉を利用中の場合は2人の声が聞こえることのないように、その隣の温泉に客を入れるなという指示もしている
売春場所の提供により罰せられる条件としては、旅館側に「故意」があったこと、つまり、旅館側において、派遣されたコンパニオンと客との間で、売春行為がおこなわれることを知って場所を提供していたことが必要になるわけです。
(1)と(2)は、このような旅館側の故意を強く推認させる事情となります。
なお、旅館からは「カギは客に渡しているし、客が勝手にコンパニオンを呼んで、勝手に買春行為に及んだだけ、旅館は知らなかった」という反論がされると思いますが、上記の(1)と(2)の事情を考えると、旅館側の故意が否定されるとは考えづらいです。
したがって、あくまでも相談内容からの判断にはなりますが、きっかけがあれば、旅館が売春防止法違反で処罰される可能性は十分にあると思います。
ただし、もちろん刑事事件の話ですから、故意の有無については厳密な立証が必要とされます。問題となっている買春行為をしている客が常連か否か、旅館とコンパニオン派遣業者の間における具体的なやり取り、そのような行為がおこなわれている状態がどれくらいの期間続いているのか、その他、従業員の証言などの事情も総合的に考慮したうえで、犯罪の成否は決まります。
●摘発が心配なら、従業員は「防衛策」をとっておこう
——カギを渡すなどの業務にあたった従業員まで罪に問われるでしょうか
理論上は、従業員も処罰対象になりえますが、通常、従業員は使用者の指示を受けてやっただけであり従属的な立場になります。場所の提供による直接的な利益を受けているわけでもないと思いますから、実際に処罰対象となるのは、旅館のオーナーなど、責任者だけである可能性が高いと思います。
ただし、それでも心配な場合は、万が一に備えて、警察に秘密裏に相談して、警察から旅館に指示・指導してもらう、オーナーと相談者のやり取りを録音するなど、客観的な記録に残しておくといった手段は防衛策として実施しておいてもよいでしょう。
温泉に入る女性(Fast&Slow / PIXTA)イメージです
——「売春」とまで至らずとも、性的サービスがあればどうなるでしょうか
売春行為がおこなわれているということで、今回は売春防止法を中心に解説しましたが、相談者が指摘するように、売春行為はなくとも、「接待行為」や「売春行為ではない性的サービス」が旅館でおこなわれるような場合には、風営法が問題になってきます。
この場合も、旅館が風営法違反で罰されるかどうかについては、これまで説明してきた視点が重要になってきます。