弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 労働
  3. 「会社はオレが守る」息を吐くように暴言連発、退職する部下も パワハラ上司の対処法は?
「会社はオレが守る」息を吐くように暴言連発、退職する部下も パワハラ上司の対処法は?
画像はイメージです(Taka / PIXTA)

「会社はオレが守る」息を吐くように暴言連発、退職する部下も パワハラ上司の対処法は?

転職先の上司から「会社のため」と退職を促されましたが応じないといけないのでしょうか──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者の女性が転職した先の上司は、「会社のため」が口癖で、女性にも執拗にダメ出しをしたり残業を強いたりするほか、「あなたの前職はレベルが低い会社だった」「スキルもプロ意識も足りない」などと言ってきたそうです。

さらに、「あなたには会社を辞めてほしい。私はこの会社を守ります」との内容が上司からLINEで送られてきたことに女性は参ってしまったようで、もう応じてしまおうかと悩んでいます。過去にも女性と同じように上司の“追い込み”で転職者や新卒が辞めていったことがあったようです。

女性はまだ会社に相談していないようですが、どう対応するのがいいのでしょうか。上司への処分を会社へ訴えることなどは可能なのでしょうか。金井英人弁護士に聞きました。

●パワハラに該当する可能性ある

──上司からの言葉に辛さを感じた場合、どう対応すべきでしょうか。

上司からの「スキルもプロ意識も足りない」「あなたには会社を辞めてほしい」という発言は、一方的に相談者を非難し、辞めてもらいたいという上司の考えを示すものであって、相談者の指導のためにされた発言とは考えにくいです。

また、それによって相談者の方が働きにくくなってしまっていますので、こうした発言は「精神的な攻撃(侮辱・ひどい暴言)」としてパワーハラスメントに該当する可能性があります。

相談者の方は、職場にハラスメント相談窓口が設置されている場合はそちらに相談をすることが考えられますが、窓口がない場合、その上司以外の他の上司や、会社の代表者などに相談することになります。

会社がパワハラの防止措置を採ることは近年義務づけられていますので、相談により会社の担当者による当事者への聴き取りや、対応措置がとられることになりますが、もしそうした対応がなされない場合は、できるだけ早めに公的機関の相談窓口や、弁護士等の専門家に相談をするべきです。

なお、上司の人が人事権をもつ管理職なのか、人事権のない上司なのかによっても、上司の発言の意味が異なってきます。

管理職である場合、「会社を辞めて欲しい」というのは会社からの退職勧奨となる可能性がありますので、それが会社としての正式なものであるのか、確認をする必要がありそうです。

●パワハラ発言や損害を証明できるよう備えておく

──精神的ダメージを受けるほどの言葉を投げかけられた場合、上司に対して損害賠償を求めることは可能ですか。

上司の行為がパワハラに該当する場合、それを根拠に損害賠償請求をすることは可能です。

その場合の相手としては、上司本人はもちろん、使用者責任や雇用契約上の安全配慮義務違反などを理由に会社に対して請求をすることも考えられます。

ただ、その場合に問題となりやすい点として、パワハラにあたる発言があったことや、精神的損害が生じていることの証明の問題があります。

自分自身が上司の発言等で心理的に苦痛を感じているときは、上司の発言を録音したり、メールやLINEのメッセージを記録したりする必要があります。また、精神的に辛いときには、病院を受診するなど、自分自身の状態を知ることも大切です。

●パワハラ認定→懲戒処分「十分にあり得る」

──もし「上司にパワハラされたので退職します」と明言して部下が退職した場合、会社は部下の退職を理由に上司に懲戒処分を課すことはできるのでしょうか。

会社が従業員に対して懲戒処分をするためには、就業規則で懲戒事由を定めていることを前提に、その懲戒処分に客観的に合理的な理由があり、処分の対象となる事由から見て処分の内容が社会通念に照らして相当であることが必要です。

この点、相談者の会社に懲戒事由の規定があることを前提にしますと、会社の従業員が部下にパワハラ行為をして退職に追い込んだ場合、パワハラ行為があったことが客観的に認められるのであれば、それは他の従業員に対する加害行為(不法行為)にあたります。

さらには会社が退職者から損害賠償を請求されうる状態にもしていますので、会社に損害を与えた等の事由で懲戒処分が認められる可能性は十分にあるといえます。

なお、会社として従業員への指導や注意をする場合には、会社として無用なトラブルを避けるためにも、上司にあたる従業員から適切な指導がなされているかを監督し、パワハラにあたる可能性のある行為を未然に防止するとよいでしょう。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

この記事は「みんなの法律相談」に寄せられた実際の相談をもとに、新たに弁護士の解説を追加して作成しています。

プロフィール

金井 英人
金井 英人(かない ひでひと)弁護士 弁護士法人名古屋法律事務所 みどり事務所
愛知県弁護士会所属。労働事件、家事事件、刑事事件など幅広く事件を扱う。現在はブラックバイト対策弁護団あいちに所属し、ワークルール教育や若者を中心とした労働・貧困問題に取り組んでいる。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では協力ライターと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする