ご近所さんとの親しいつながりが、思いもよらぬトラブルの元になることがあります。
弁護士ドットコムに相談を寄せた男性は、近くに住む一人暮らしの80代女性と仲良しで、車で病院に連れていったり、買い物や掃除を引き受けていたそうです。
高齢だった女性が亡くなってしまうと、遺産(すべての預金400万円)を男性が相続するように遺言を用意していたことが明らかとなりました。
長年疎遠だった一人息子が男性の前に現れ、「あなたは全額もらっても、半分は遺留分で返してもらう。裁判をする」と迫ってきたそうです。
男性は迫られるままに、その場では遺留分にあたる200万円を返す約束をしましたが、一人息子の弁護士から改めて「遺留分を犯しているから200万円を返せ」と求める内容証明が届きました。
預金半分をもらえるだけでありがたいと感じる男性ですが、裁判になるのは避けたいと考えています。
生前、「あんたの住所教えて」としきりに言ってきた高齢女性の顔が思い出されます。血を分けた息子ではなく、どうしても男性に遺産を渡したかったのでしょう。
この状況をどう乗り切ればよいでしょうか。
●遺言によって全財産を遺贈されても、実子には「遺留分」をもらう権利がある
この事例では、亡くなった女性が相談者に対して預金全部を「遺贈」する旨の遺言を作成しています。
遺贈とは、遺言によって財産を無償で特定の人に与えることです。遺言は故人の最終的な意思として尊重されるべきものですが、日本の民法は、特定の相続人(兄弟姉妹以外の相続人)に対して、最低限相続できることが保障された財産の割合を定めており、これを遺留分といいます(民法第1042条以下)。
この事例で、亡くなった女性の息子は、遺留分を持つ相続人にあたります。故人に配偶者がいない場合、子の遺留分は法定相続分の2分の1と定められています。したがって、預金全部を相談者が受け取ると、息子の遺留分を侵害することになります。
●裁判で請求されるのは「遺留分侵害額請求」です
息子が裁判で請求すると述べているのは、「遺留分侵害額請求」であると考えられます。これは、遺言などによって遺留分を侵害された相続人が、財産を受け取った人(この事例では相談者)に対し、侵害された額に相当する金銭の支払いを求める権利のことです(民法第1046条)。
この紛争は、原則として、いきなり訴訟となるのではなく、家庭裁判所での調停(話し合い)から開始されます(家事事件手続法第257条1項。「調停前置主義」といいます)。
相談者は裁判にされるのを避けたいようですが、調停の場でも遺留分侵害額に相当する金銭を支払う意思を伝え、そのとおりに実際に支払いを完了すれば、裁判に発展する可能性は極めて低くなります。