夫の不倫相手に証拠としてLINEのやりとりをつきつけたら、「プライバシー侵害で訴える」と言われたーー。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者は、夫が性病に感染したことで浮気を疑いLINEを調べたところ、ママ友と不倫関係にあることが判明しました。
LINEのやり取りを自身のPCに転送し、その内容を不倫相手につきつけたところ、謝ってくるどころか「プライバシーの侵害で訴える」と言われたそうです。
不倫相手とされるママ友は、そもそも不倫の事実を否定しているようです。勝手に転送したLINEは慰謝料請求の証拠として使えないのでしょうか。また、ママ友の主張するようにプライバシー侵害になるのでしょうか。
●プライバシー侵害にはあたりうる
相談者は、「スマホの持ち主である夫から、プライバシー侵害だと言われるのならまだ納得するが、不貞相手にそんなことを言われるのは納得できない」と感じています。
しかし、プライバシーの権利とは、私生活上の事柄をみだりに公開されない権利を意味します。LINEのやり取りは、やり取りの当事者双方のプライバシーに関わる情報です。したがって、たとえ不貞行為の相手方であっても、そのやり取りを無断で収集・開示する行為は、不貞相手のプライバシーをも侵害する可能性があります。
夫のスマートフォンから無断で情報を転送・開示したという「事実」は、不貞相手から「プライバシー侵害に基づく損害賠償請求」を受ける「要件」を満たしうるのです。
ただし、一般的には、不貞行為を理由とする慰謝料の金額に比べ、この種のプライバシー侵害で認められる損害賠償の金額はかなり小さい傾向にあります。
●LINEのやりとりは、基本的には裁判で証拠にできる
次に、勝手に転送したLINEのやり取りが、不貞行為に基づく慰謝料請求の「証拠」として裁判で認められるか、という点です。
結論からいえば、証拠にできる可能性が高いです。
民事訴訟においては、刑事訴訟ほど厳格に証拠の収集方法が問われるわけではありません。日本の裁判実務は、証拠の収集方法が違法だからといって、その証拠を直ちに採用しないという立場はとっていないのです(東京高判令和6年4月24日など)。
ただし、極めて反社会的な手段や、人の精神的・肉体的自由を拘束するなどの人権侵害を伴う方法で収集されたある場合は、その「証拠能力」が否定されると解されています(東京地判平成18年6月30日など参照)。
本件の場合、夫のスマートフォンからLINEを転送したという行為は、夫や不貞相手のプライバシーを侵害し、違法の評価を受ける可能性はありますが、著しく反社会的な手段とまではいえないでしょう。
したがって、裁判所が、証拠の重要性、収集による人権侵害の程度などを総合的に考慮したうえで、LINEのやり取りを証拠として採用する可能性は高いと考えられます。
●「証拠にできる」ことと「裁判に勝てる」ことは別の話
ただし、このLINEのやり取りが証拠として採用されたとして、それだけで慰謝料請求が認められるか、という点にも注意する必要があります。
慰謝料請求が認められるためには、「不貞行為(基本的には肉体関係)」の存在が不可欠です。LINEのやり取りだけで肉体関係の存在や頻度が詳細にわかるわけではないのが通常であるため、これだけで多額の慰謝料が認められるかといえば難しい部分もあります。
しかし、本件では、夫が性病になったという「事実」があり、その感染経路についてLINEのやり取りで示唆される「事実」(例えば、性病に関する言及、性交渉の示唆、ホテルの利用など)が残っていれば、夫と不貞相手との性交渉による感染を強く推認させる有力な証拠となりえます。
不貞相手が肉体関係を否定している場合でも、他の状況証拠(ホテルの予約記録、二人の写真など)とLINEのやり取りを組み合わせることで、慰謝料請求が認められる可能性は高まります。
相談者としては、LINEのやり取りに加え、夫のクレジットカードの利用明細、ホテルの予約履歴、不貞相手のSNS投稿など、不貞行為の事実を裏付ける他の証拠がないか調べてみるのが良さそうです。