日本では法律で重婚が禁じられており、婚姻は一夫一妻制が大原則だ。
しかし、日本の婚姻数や、人口の減少といった社会問題を背景に、SNS上では冗談めかして、「金持ちが一夫多妻(あるいは一妻多夫)すればいいじゃないか」という声も上がることもある。
最近も、クワバタオハラのくわばたりえさんが7月13日に放送された番組『月よるビッグバン』(ABCテレビ)のなかで「一夫多妻制」に賛同する意見を示した。
そんななか、「複数のパートナーと事実婚の関係を持ちたい」──。事実上の"一夫多妻"を望む相談が弁護士ドットコムに寄せられた。
相談者は年収3000万円ほどの経営者。現在は婚姻中で子どももいるが、今後、配偶者と離婚したうえで、現配偶者を含む複数のパートナーと事実婚関係を結び、パートナーと子ども全員に平等な経済的支援を充実させたい考えだという。
そのうえで、(1)有責配偶者にならずに協議離婚する方法(2)事実婚パートナーへの法的保護(3)遺留分の制約下での「平等な相続」について知りたいという。
日本でこうした“家族設計”はどこまで可能なのか。企業経営者からの相談にも取り組む嶋本敦弁護士は「一夫多妻を望む富裕層からの相談も受けることがあります」と取材に語る。その「回答」は?
●事実婚による「事実上の一夫多妻」は可能か
──複数のパートナーと家庭を築きたいという相談が寄せられることはありますか。
まず大原則として、日本の法律では「一夫一妻制」が採られており、重婚は民法および刑法で固く禁じられています。
一方で、多様な家族のあり方を望む富裕層や経営者の中から、婚姻届を出さない「事実婚」の枠組みを利用して複数のパートナーと家庭を築きたいという相談が寄せられることがあります。
──基本ですが、日本では法律上の一夫多妻制は認められていませんよね。
民法732条は重複して婚姻することを禁じており、これに違反すると重婚罪(刑法184条)に問われます。したがって、法律上の一夫多妻は不可能です。
婚姻届を出さない「事実婚(内縁)」は、判例上「準婚関係(婚姻に準ずる関係)」として扱われ、同居協力扶助義務(民法752条準用)や財産分与(民法768条準用)などの法的保護が一部認められています。
●事実婚の法的保護は「1組」に限られる
当事者同士が真に合意して任意に複数の事実婚状態を継続するということが、法的に禁止されているわけではありません。
ただし、事実婚としての法的保護や権利・義務が認められるのは、「一対一の誠実な共同生活関係」が存在することが大前提です。
したがって、同時に複数のパートナーに対して「法律婚に準ずる事実婚関係」を重複して認められることはないと考えられます。
仮に、複数のパートナーと同じ家屋で共同生活を送り、経済的な援助をおこなっていたとしても、それは法的な意味での「事実婚」ではなく、あくまで「私的な同居関係および扶養契約」にとどまります。
自治体のパートナーシップ制度や、民間の生命保険の受取人指定なども、重複して複数のパートナーを対象にすることは想定していないのではないかと思われます。
●「一夫多妻制」の法的トラブル
──仮に複数のパートナーと家庭を築こうとした場合、どんな法的トラブルが生じますか。
1人の男性が複数のパートナーとその子どもたちと家庭を築こうとする場合、主に以下の3つの分野で法的トラブルが発生するリスクがあります。
(1)関係解消時のリスク
事実婚パートナーとの関係が成立すると、上記のとおり一定の法的保護を受けることになります。そのため、これを解消する際には、離婚の場合と同様に、慰謝料の支払や財産分与が請求される可能性があります。
(2) 相続における「遺留分」の制約と不平等
事前の契約等で「パートナー全員に平等の支援をする」と約束していても、相続発生時には法律の制約を受けます。
まず、事実婚のパートナーには民法上の法定相続権がなく、これは法律婚との大きな違いです。財産を渡すには「遺言書」の作成や「死因贈与契約」を結んでおく必要があります。
さらに、遺留分侵害額請求のリスクがあります。経営者に法律上の子ども(元妻との間の子、および認知した子)がいる場合、子どもには「遺留分(法律上最低限保障された相続分)」があります。
特定のパートナーやその子に財産を遺贈しようとしても、他の子どもたちが自身の遺留分を侵害されているという主張をすれば、せっかくの平等な配分設計が崩れ、死後に親族間紛争(争続)が引き起こされる可能性が高くなります。
(3) 認知の必要性
事実婚のパートナーとの間に生まれた子どもは、法律上「非嫡出子」となります。
父親としての法律上の親子関係を発生させるには、自ら「認知」をおこなう必要があります。
認知をすると、その子どもは法律上の嫡出子と全く同等の法定相続分を持つことになります。同時に、父親にはその子に対する養育費の支払義務が生じます。
●離婚前に不貞行為が成立してしまうリスクも
──相談者は「有責配偶者にならず離婚したい」と話しています。離婚が成立する前に別のパートナーとの関係を深めると、不貞行為として離婚や慰謝料に不利になる可能性はありますか。
相談者は「有責配偶者にならずに協議離婚したい」と望んでいますが、実務上のハードルは非常に高いと言えます。
離婚が法的に成立する、あるいは夫婦関係が完全に破綻(別居の開始など)する前に、別のパートナーとの交際を深めた場合、相談者は法的には有責配偶者となります。
有責配偶者には、裁判上の離婚が認められにくく、また慰謝料支払いなどの不利益が生じます。
相手が離婚を拒否した場合、有責配偶者からの離婚請求は裁判所によって原則として認められません(長期間の別居や未成熟子がいないことなど、厳しい条件を満たさない限り、離婚成立にかなりの歳月を要することがあります)。
またこの場合、配偶者に対する精神的苦痛に対する賠償として、相応の慰謝料を支払う必要が生じます。