「中絶の費用も、つらい思いをした分の慰謝料も、相手の男性には求められないのか」。
弁護士ドットコムには、中絶をめぐって相手男性の対応を問う相談が相次いでいる。
ある女性は、避妊をしないまま妊娠し、それを伝えると軽い調子で「おろしてほしい」と言われたという。
産みたいという訴えは取り合ってもらえず、1人で育てるのは難しいと中絶を選んだそうだ。手術費は相手が出したが、慰謝料の話を向けると遠回しに拒まれたという。
別の女性は、相手が返答を先延ばしにした結果、中絶できる期間の終盤の手術になったと訴える。
届く相談の中には「中絶負担軽減義務違反だ」と主張する女性もいる。離婚・男女問題にくわしい林本悠希弁護士の監修のもと解説する。
●中絶費用は男性も「応分の負担」を
中絶にかかる費用は、女性だけが負うものではないと考えられます。
裁判例には、性行為を男女が共同して行った行為ととらえ、その結果である妊娠・中絶で女性に生じる心身の負担や出費について、男性も応分に負担すべき義務があるとしたものがあります。これを、「中絶負担軽減義務」といったりします。
実務では損害額の2分の1などの割合的分担が命じられる例が多いようです。特段の事情がない限り、全額を男性負担とした裁判例もあります。手術費だけでなく、通院に要した費用も対象になり得ます。
ただし、中絶が行われれば、全ての事案においてその費用などの請求が自動的に認められるというわけではないので、注意が必要です。個別具体的な事情によりますので、弁護士にご相談なされることをおすすめします。
●慰謝料は「経緯と態度」で決まる
一方、中絶したという事実だけで慰謝料が認められるわけではありません。妊娠の経緯、妊娠を告げたときの言動、話し合いへの対応、手術前後の態度といった経緯が重視されます。
連絡を引き延ばした結果、女性の負担がより重い時期の手術になったようなケースでは、不法行為責任を基礎づける事情として考慮される可能性があります。
実際に認められた金額は数十万円から100万円台まで幅があり、一律の相場があるわけではありません。
●「中絶負担軽減義務」は条文にない
弁護士への相談でしばしば使われる「中絶負担軽減義務」は、民法に明記された義務ではありません。性行為という共同の行為から生じた不利益は、相手方にも軽減・解消する義務がある。これを怠れば不法行為にあたる——という裁判所の考え方を指した呼び名です。
東京高裁判決(東京高判平成21年10月15日)は、女性が持つ「生殖の場における法律上保護される利益」にも言及しています。
●記録は残しておく
損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年で時効消滅するのが原則です(民法724条第1号)。
ただし、中絶による身体的・精神的苦痛の損害賠償は「人の身体を害する不法行為」に該当すると評価される余地があり、その場合には時効期間が5年に伸びます(同法724条の2)。
妊娠を伝えたやりとりの記録、手術費の領収書、通院の記録は、話し合いでも裁判でも第一歩となります。