「なぜ、こんなにお金をあげてしまったのだろう」
20代女性との交際にのめり込み、5年間で約1000万円を渡したという60代の既婚男性から、弁護士ドットコムに相談が寄せられています。
女性が学生だったころから交際し、生活費や学費として援助を続けてきました。しかし、関係が悪化して別れることになり、男性はお金を返してほしいと要求しました。
ところが、女性は「不法原因給付にあたるから返す義務はない」と拒否。男性は、渡した金額や当時の会話を日記に残しているものの、借用書はありません。「その時はあげたつもりだった」といいます。
一度は自分の意思で「あげた」1000万円を、別れた後になって取り戻せるのでしょうか。また、不倫相手への金銭援助が「不法原因給付」にあたると、なぜ返還を求められなくなるのでしょうか。竹村公利弁護士の監修で解説します。
●「あげた」お金は、別れたからといって取り戻せない
まず問題となるのは、約1000万円が「貸したお金」なのか、それとも「あげたお金」なのかという点です。
民法549条は、当事者の一方が財産を無償で相手に与える意思を示し、相手が受け入れることで「贈与」が成立すると定めています。
今回、相談者自身が「その時はあげたつもりだった」としています。借用書もなく、返済期限や返済方法などを決めていた事情も見当たりません。
そのため、生活費や学費として渡した金銭は「貸金」ではなく「贈与」と判断される可能性が高いでしょう。
書面によらない贈与は原則として解除できますが、すでに履行が終わった部分は解除できません。つまり、実際に女性へ渡してしまったお金については、「別れたから」「渡したことを後悔したから」という理由だけで返還を求めることは難しいと考えられます。民法550条も、履行が終わった贈与については解除できないと定めています。
●不法原因給付とは?
もう一つ問題になるのは、女性が主張している「不法原因給付」です。
「不法原因給付」とは、法律上許されない目的や、社会的に不当と評価される目的のために、お金や物を渡すことをいいます。
民法708条では、「不法な原因」のために財産を渡した人は、原則としてその返還を求めることができないと定めています。
たとえば、既婚者が不倫関係を維持する目的で交際相手にお金や財産を渡した場合、その目的や経緯によっては「不法原因給付」にあたる可能性があります。
なぜ返還を求められないのかというと、違法・不当な目的で自ら財産を渡しておきながら、後になって法律の力を借りて取り戻すことは認めない、という考え方があるためです。
ただし、既婚者が交際相手に渡したお金が、すべて不法原因給付になるわけではありません。何のためにお金を渡したのか、交際関係との結びつきがどの程度あったのかなど、具体的な事情によって判断されます。
今回の1000万円についても、生活費や学費として渡したという事情があるため、直ちにすべてが不法原因給付になるとは限りません。
もっとも、不法原因給付にあたらなかったとしても、もともと返してもらう約束のない「贈与」だったと判断されれば、原則として返還を求めることは難しいでしょう。