海外赴任中の夫が、現地で不倫していた──。
妻は日本にいて、不倫相手は海の向こう。そんな場合でも、日本から慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
弁護士ドットコムには、海外赴任中の夫の不倫をめぐる相談が複数寄せられています。
ある妻からの相談によると、夫は赴任先で日本人女性と不倫関係になったといいます。
妻は不倫相手への慰謝料請求を考えていますが、「相手が海外にいる間は日本から請求できない」という情報を目にして、不安を感じています。
そもそも海外で起きた不倫に、日本の法律は適用されるのでしょうか。離婚・男女問題にくわしい澤藤亮介弁護士に聞きました。
●海外にいる不倫相手にも慰謝料請求はできる?
──夫が海外赴任中に不倫した場合、日本にいる妻が不倫相手の女性に慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
結論から申し上げると、原則として可能です。
「相手が海外にいる間は請求できない」という情報もあるようですが、相手がどこに住んでいても、慰謝料を請求すること自体はできます。
ただし、実際に裁判を起こすとなると、いくつかの問題があります。
まず、どの国の法律が適用されるのかという問題です。法律用語では「準拠法」といいます。
日本の法律では、不法行為について、原則として「加害行為の結果が発生した地」の法律を適用すると定めています(法の適用に関する通則法17条)。
──では、海外で不倫がおこなわれた場合、海外の法律が適用されるのでしょうか。
必ずしもそうではありません。
裁判例では、不倫がおこなわれた場所ではなく、被害者である妻が婚姻生活を送っていた場所を基準とする傾向があります。
今回のように、夫だけが海外に赴任し、妻が日本で生活を続けている場合、婚姻生活の場は日本にあると考えられます。そのため、日本の法律が適用される可能性が高いでしょう。
もう一つの問題は、日本の裁判所で裁判を起こせるかどうかです。これを「国際裁判管轄」といいます。
この点についても、日本で損害が生じている場合には、原則として日本の裁判所に訴えを起こすことができます(民事訴訟法3条の3第8号)。
つまり、不倫相手が海外に住んでいるからといって、日本から慰謝料を請求できなくなるわけではないのです。
●海外にいる相手へ請求、どう進める?
──実際に慰謝料を請求する場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。
一般的には、次のような流れになります。
(1)不倫の証拠を確保する
(2)書面で慰謝料を請求し、交渉する
(3)交渉がまとまらなければ、裁判を起こす
相手が海外に住んでいる場合でも、基本的な流れは変わりません。
まず、不倫相手の日本国内の住所がわかっていれば、そこに慰謝料の支払いを求める内容証明郵便を送り、交渉を始めるのが一般的です。
相手が海外に住んでいる場合には、海外の住所宛てに国際郵便(EMSなど)を送ったり、メールで連絡したりする方法もあります。
交渉がまとまらなければ、裁判を検討することになります。
今回のようなケースでは、妻の住所地を管轄する日本の裁判所に訴えを起こすことが可能と考えられます。
ただし、ここからが海外の不倫相手に請求する際の難しいところです。
相手が海外に住んでいる場合、外国の当局などを通じて訴状などを届けることになるため、数カ月、国によっては1年以上かかることもあります。
一方、相手に代理人弁護士がついており、その弁護士が訴状を受け取れる場合には、裁判所の判断を経て、海外への送達をせずに国内で手続きを進められるケースもあります。
また、相手が日本に帰国すれば、国内で送達できるため、手続きは比較的進めやすくなります。
●裁判に勝っても「慰謝料を回収できない」おそれ
──日本の裁判所で勝訴すれば、慰謝料を支払ってもらえるのでしょうか。
実は、ここにも大きなハードルがあります。
仮に日本の裁判所で勝訴判決を得たとしても、相手が海外に住み、財産も海外にしかない場合、すぐに慰謝料を回収できるとは限りません。
日本の判決に基づいて海外の財産を差し押さえるには、原則として、その国で改めて判決の承認や強制執行の手続きを取る必要があります。国によって制度や手続きが異なり、時間も費用もかかるため、実際に慰謝料を回収するまでのハードルはかなり高くなります。
そのため、実務上は、相手がいつ日本に帰国するのか、日本国内に預貯金などの財産があるのかといった事情も確認しながら、費用対効果を考えて請求方法を検討することになります。
ただし、帰国を待つ場合には注意が必要です。
不倫を理由とする慰謝料請求には、原則として、不倫の事実と相手を知った時から3年という時効があります(民法724条1号)。
相手の帰国を待つ間に時効が完成してしまうおそれがあるため、早めに弁護士に相談し、適切な対応を取ることが必要です。