「既婚者だとわかった。それでも、相手との関係を切れなかった」
弁護士ドットコムには、こうした相談が続けて寄せられている。
ある女性は、数年の交際を経て相手が既婚者だと知り、それでも関係を断ち切れずに、その後も体の関係を数回持ってしまったという。
相手が既婚者だと確信する直前に一夜をともにし、その日のうちに問いただして白状させたという女性もいた。「もう体の関係は持たない。ただ、最後に一度だけ食事に行きたい」と揺れている。
「独身偽装」が判明してからも、どうしても相手から離れられないとき、法的には大きなリスクも存在する。男女問題にくわしい林本悠希弁護士の監修のもと解説をお届けする。
●「知った日」がいつだったか
──独身だと偽られていた場合、相手に慰謝料を請求できると聞きます。既婚者だと知った後も関係を持ってしまうと、この請求はできなくなりますか。
請求できなくなるわけではありません。
既婚であることを隠して交際し、性的な関係を結ぶ行為は、相手の性的自己決定権(貞操権)を侵害する不法行為にあたります(民法709条)。知らずに過ごした期間に受けた被害は、後から関係を続けたからといって、なかったことにはなりません。
ただし、金額には響きます。既婚だとわかってからも関係を断たなかったことは、被害者側の事情として慰謝料の算定で考慮されるためです(民法722条2項)。
実際に、独身だと偽られた事案でありながら、その後の経緯を考慮して慰謝料を20万円にとどめた裁判例もあります(東京地裁2018年1月19日判決)。
つまり、「知った日」がどこかによって、請求できる範囲が変わります。証拠を整理するときは、独身だと言われていたやりとりだけでなく、いつ、どうやって既婚だと知ったのかがわかる記録もあわせて残してください。
●知った上で関係続けたら故意の不貞行為に
──相手の妻から訴えられる心配もあります。
配偶者のいる人と肉体関係を持った第三者は、故意または過失があるかぎり、他方の配偶者に対して責任を負います(最高裁1979年3月30日判決)。
裏を返せば、既婚だと知らず、知らなかったことに落ち度もなければ、その期間について責任は生じません。
問題は、既婚だと知った後です。知ったうえで関係を持てば、それは故意による不貞行為にあたり、慰謝料を請求される対象になります。
なお、相手の夫婦関係がすでに破綻していた場合には責任を負わないとされていますが(最高裁1996年3月26日判決)、破綻していたかどうかは相手の説明ではなく実態で判断されます。「妻とはもう終わっている」という言葉だけでは根拠としては不十分です。
好きな気持ちを突然なかったことにはできないかと思います。しかし、独身偽装が判明してから関係を続けるのはおすすめできません。