「あの旅館は幽霊が出る」「あのホテルで金縛りにあった」。人生で一度はこんなホラー話を聞いたことはないでしょうか。
近ごろはインターネット上で、都市伝説や実話怪談のちょっとしたブームもあります。ブログやSNS、YouTubeでそんな情報が増えている気がします。
オカルト好きにはたまらない話ですが、嫌いな人にとっては致命的で、そんなホテルや旅館に泊まりたいとは思わないでしょう。
また、「幽霊が出る」なんて書かれたホテルや旅館にとっては、あまりいい気分ではないかもしれません。
弁護士ドットコムにも「名誉毀損にならないの?」という質問が寄せられています。こうした内容をネットに書き込んだ場合、法的問題はないのでしょうか。田中伸顕弁護士に聞きました。
●「幽霊が出る」だけでは名誉毀損になりにくい
まず、名誉毀損が成立するには、「事実の摘示」、つまり「特定の事実を示したもの」が必要です。
したがって「幽霊が出る」といった書き込みが「特定の事実を示したもの」といえるかどうかが問題となります。
しかし、幽霊の存在というのは、科学的に証明されていません。
そのため、単に「幽霊が出る」と書き込んだところで、特定の事実が示されているとはいえず、名誉毀損の成立は困難だと思われます。
●ただし名誉毀損が成立するケースはある
一方で、「幽霊が出る」という書き込みであっても、過去に殺人事件や自殺が発生したといった事実を前提にしていることが閲覧者に伝わるような場合は、名誉毀損が成立する余地があります。
たとえば、「あの旅館に幽霊が出るのは殺人があったからだ」です。このような書き込みであれば、名誉毀損が成立する可能性が発生します。
また、前後の投稿内容や文脈を総合的に見て、「そこで誰かが亡くなった」「過去に事件があった」など「事実を暗示」していると解釈できる場合も、名誉毀損が成立する余地があります。
そのため、インターネット上の書き込みに対する削除請求や、投稿者の情報開示請求の場面では、一見すると事実を摘示していないように見えても、できるだけ事実の摘示がされていると主張していくことになります。
●偽計業務妨害にもなるそれも
また、「幽霊が出る」という書き込みによって、客観的に真実に反する情報を流布して、客足を遠のかせるなどして、旅館やホテルの業務に支障を生じさせた場合は、偽計業務妨害罪(刑法233条後段)に該当する可能性があります。
このように、「幽霊が出る」という書き込みは、一見すると無害に見えるかもしれませんが、旅館やホテルを特定できる形で根拠のない事実を語ると、名誉毀損が成立したり、偽計業務妨害罪に該当するリスクがあります。
怪談やホラー話を書くこと自体を否定するものではありませんが、誰が読んでも創作だとわかる形で書くこと、特定の施設名を出さないこと、根拠のない事実を書かないこと──といった配慮が必要です。