せっかく高い学費を工面して大学に進学させたのに、授業には遅刻や欠席を繰り返し、遊んでばかり。そんな子どもの姿を見れば、「勉強する気がないなら、もう辞めてほしい」と思ってしまう親もいるかもしれません。
8月にはSNSでも、医学部に通う子どもの態度などをめぐり、親が「大学を辞めさせたい」という趣旨の投稿が話題になりました。
弁護士ドットコムにも、私立大学に通う子どもについて、「どうにか学費をつくって行かせています」という親から相談が寄せられています。
子どもは遅刻や欠席が多く、このままでは出席日数が足りず、試験も受けられなくなりそうだといいます。親が「続けることが無理なら退学してほしい」と伝えたところ、子どもからは「本人が押印しなければ、勝手に辞めさせることはできない」と言われたそうです。
大学生の子どもが成人している場合、学費を負担している親であっても、本人の意思に反して退学させることはできるのでしょうか。松本典子弁護士に聞きました。
●親が勝手に退学手続きはできない
──大学生の子どもが遅刻や欠席を繰り返し、勉強する意思がないように見える場合、学費を負担している親が「これ以上通わせられない」と考え、本人の同意なく退学手続きをすることはできるのでしょうか。
結論からいうと、できません。
大学に通う法的な根拠は、学生本人と大学との間で結ばれる「在学契約」です。契約の当事者はあくまで学生本人であり、たとえ学費を全額負担していても、親は契約の当事者ではありません。
また、子どもが成年(18歳)に達すると親権は終了しますので、親が子どもに代わって契約を解消する権限もありません。退学は、本人の意思に基づく届出(退学願)によって行うのが原則であり、多くの大学は本人の署名を要件としています。
今回のケースで子どもさんが「本人の押印がなければ、勝手に辞めさせることはできない」と言ったのは、法的には正しい理解です。
仮に親が本人に無断で退学届を作成して提出すれば、かえって私文書偽造などの問題が生じるおそれすらあります。
●親に学費の支払い義務はないが…
──本人が退学を拒否している一方、親が学費の支払いを打ち切ることはできるのでしょうか。
退学させることはできない一方、学費の支払いを続けるかどうかは、基本的に親の判断に委ねられています。
親は成年に達した子どもに対しても扶養義務を負いますが(民法877条)、その内容は、自分の生活を犠牲にしてまで援助しなければならないものではなく、余力の範囲で援助すれば足りると考えられています。
成年の子どもの学費についても、親が当然に負担し続けなければならない、という法的義務があるわけではありません。
理論上は、支払いをしない親に対して、子どもの側から家庭裁判所に扶養を求める調停や審判を申し立てることも考えられます。
もっとも、その場合でも、本人の就学状況や稼働能力、親の資力などを踏まえて判断されるため、遅刻や欠席を繰り返し、勉強する意思が見られないという事情は、親側に有利に考慮されると思われます。
とはいえ、学費の打切りは、子どもの進路にも親子関係にも大きな影響を与えかねない、いわば最後の手段です。
まずは「出席状況が改善しなければ、次の学期の学費は払わない」といった条件を具体的に示して話し合い、それでも改善しないときは、奨学金やアルバイトで本人に負担させるなど、段階を踏むことをおすすめします。
学費の負担は、親の義務である前に、子どもへの投資であり応援です。そのことを親子で確認し合う機会にしていただければと思います。