ラーメン屋で、爪楊枝を取ろうと手を伸ばしたら、容器のふたが外れて、数十本がスープに入ってしまった──。
そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられている。
どんぶりに浮かぶ大量の爪楊枝を想像すると、少し笑ってしまいそうになるかもしれない。
だが、相談者は笑っていられない。店員から「最悪の場合、警察に通報させていただく」とまで言われたからだ。
もちろん、わざと爪楊枝をスープに入れたわけではない。それでも、店の備品を大量に使えなくしてしまっている。
そもそも、店の爪楊枝をスープに入れるなどして使い物にならなくした場合、罪に問われる可能性はあるのだろうか。大和幸四郎弁護士に聞いた。
●わざとなら「器物損壊罪」の可能性
まず考えられるのが、器物損壊罪(刑法261条)だ。
器物損壊罪は、他人の物を損壊した場合に成立する犯罪で、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料が定められている。
ここでいう「損壊」は、物を壊した場合だけに限られない。本来の用途に使えない状態にする行為も含まれる。
たとえば、店が客に提供するために用意していた爪楊枝を、故意にスープへ大量に投入し、衛生上使えない状態にした場合には、器物損壊罪が成立する。
●「過失」だったら処罰されない
ただし、器物損壊罪は「故意犯」だ。
今回の相談者のように、爪楊枝を取ろうとした際、誤って容器のふたが外れ、中身がスープに落ちてしまったのであれば、話が変わってくる。
器物損壊罪には、過失によって他人の物を壊した場合を処罰する規定がない。
そのため、本当に「うっかり落としてしまった」だけであれば、器物損壊罪には問われない。
●「迷惑動画」は威力業務妨害罪も
一方、飲食店での悪ふざけを撮影してSNSに投稿する、いわゆる「迷惑動画」のように、爪楊枝を意図的にスープへ入れた場合はさらに問題になる。
行為の態様や店への影響によっては、器物損壊罪だけでなく、店の営業を妨害したとして威力業務妨害罪(刑法234条・233条)などが問題になる可能性もある。
●犯罪にならなくても「弁償」はあり得る
では、故意ではなければ、何の責任も負わないのだろうか。刑事責任とは別に、民事上の責任が生じる可能性はある。
不注意によって店の物を使えなくしてしまった場合、民法上の不法行為(民法709条)が成立すれば、その損害を賠償する責任を負うことがある。
今回のケースでは、爪楊枝の容器がどのような状態だったのか、相談者がどのように手を伸ばしたのかなどによって、そもそも相談者に過失があったといえるのかも変わってくる。
仮に賠償責任が認められるとしても、基本的には実際に店に生じた損害が対象となる。爪楊枝を数十本ダメにしたからといって、それだけで高額な賠償責任を負うとは考えにくい。
店員から「警察に通報する」と言われれば、不安になるのも無理はない。
笑い話のような「爪楊枝ドボン」でも、刑事責任と民事責任は分けて考える必要がありそうだ。