「社内不倫」に及ぶ人がいます。いけないとわかっていても、身近な人が魅力的に見えてしまうことがあるのかもしれません。
弁護士ドットコムにも、社内恋愛や社内不倫をめぐる相談が数多く寄せられています。
たとえば「社用車のGPSから行動が会社に発覚した」「社内ダブル不倫がバレて相手の配偶者がSNSで暴露して大騒ぎになった」といった内容です。
「社内不倫」が表面化したことで、職場に深刻な影響が及ぶケースも少なくありません。
●不倫が引き金となって職場の秩序が崩れる
労働問題にくわしい向井蘭弁護士は12月中旬、Xにこんな投稿をしました。
「社内不倫禁止を就業規則に明記できないかと相談を受けることがあります。『不倫禁止』と明記しても良いですが、より汎用性を持たせるために『職場の秩序や風紀を乱し、業務に支障をきたす恋愛関係の禁止』といった表現にし、服務規律に盛り込むのが無難かつ実用的です」
就業規則に「社内不倫禁止」を規定すること自体は可能なようです。ただし、それを実際に有効なルールとして機能させるには限界があるといいます。
企業側が本当に頭を悩ませているのは「不倫そのもの」よりも、不倫が引き金となって職場の秩序が崩れることだそうです。
では、こうした問題に直面した職場に対して、どのようなアドバイスが考えられるのでしょうか。使用者側として労働事件に取り組む向井弁護士に聞きました。
●社内不倫がバレて騒ぎに「医師と看護師」「介護職員同士」閉鎖的な環境が影響か
──実際にどのような相談が多いのでしょうか。
「社内不倫をやめさせたい」「不倫をしている従業員を解雇できないか」という相談は、実は業種や企業規模を問わず、定期的に寄せられています。
特に多いのは、医療機関(クリニックや病院)、介護施設、少人数の支店や営業所など、閉鎖的で人間関係が濃密になりやすい職場です。
Xの投稿でも触れましたが、医師と看護師、看護師同士、介護職員同士の不倫に悩むケースは枚挙にいとまがありません。
経営者や人事担当者が頭を抱えるのは、単に「不倫という不道徳な行為があること」そのものよりも、それが原因で職場のチームワークが崩壊することです。
●配偶者が「会社に突撃」→業務が完全にストップするケースも
──具体的には、どのような影響が出るのでしょうか。
たとえば、上司と部下が不倫関係にある場合、どうしても業務の割り振りや人事評価に「えこひいき」があるのではないかと疑われがちです。たとえ実際はそうでなくても、周囲がそう感じてしまいます。
すると、真面目に働いている従業員のモチベーションが下がり、「あの二人がいるなら辞めます」と連鎖的な退職につながることも少なくありません。
また、当事者の関係が破綻した後に、職場で無視し合ったり、業務連絡を滞らせたりするなど、「痴話喧嘩の延長」が業務に持ち込まれるケースも珍しくありません。
さらに深刻なのが、不倫相手の配偶者が会社に乗り込んでくる事態です。
「会社は不倫を容認しているのか!」と怒鳴り込まれたり、執拗に電話がかかってきたりして、業務が完全にストップしてしまうこともあります。
こうした相談の背景には、常に「業務への具体的な支障」が存在しています。
●就業規則に「社内不倫禁止」、規定することは可能だが…
──就業規則に「社内不倫禁止」を明記することはできるのでしょうか。
結論から言えば、「社内不倫禁止」という文言を就業規則に書くこと自体は可能です。企業が定める服務規律には、一定程度の裁量が認められているからです。
ただし、その規定が、常に「有効(絶対的な禁止)」として機能するかどうかは別問題です。
従業員の私生活は原則として自由であり、会社が過度に介入することはできません。
裁判例でも、職場外での行為については、企業の社会的評価を損なったり、業務に重大な支障を及ぼしたりしない限り、懲戒処分の対象にならないとする考え方が確立しています。
そのため、単に「不倫はけしからん」という理由だけで、私生活上の不倫を一律に禁止し、処分することには高い法的リスクがあります。
●悩める経営者への実務的アドバイス
──向井弁護士は、会社側にはどのような助言をしているのでしょうか。
実務的には、投稿でも触れたように「職場の秩序や風紀を乱し、業務に支障をきたす恋愛関係(不倫含む)の禁止」や、「公私混同の禁止」といった表現をすすめています。
これであれば、「不倫そのもの」ではなく、不倫によって職場環境を悪化させたことや業務に支障を出したことを規制の対象にでき、合理的かつ実用的な規定となります。
「不倫禁止」と明記することで一種の抑止効果を狙う企業もありますが、あまりに厳格に禁止すると、かえって「秘密の恋」として当事者の熱量が高まる「ロミオとジュリエット効果」のような側面も否定できません。
規定を設ける場合でも、会社の規模や社風に合わせて慎重に検討すべきでしょう。
●社内不倫が発覚したら、人事異動で対応するケースはありえる
──こうした規則に基づき、社内不倫をした従業員を処分することは可能なのでしょうか。
就業規則に規定があっても、不倫の事実だけで、直ちに「懲戒解雇」などの重い処分をすることは、日本の労働法制では極めて困難です。「不倫=即クビ」は、まず無効になります。
処分が有効とされるには、次の2点が重要になります。
(1)就業規則上の根拠があるか(前述の「風紀を乱す行為」など)
(2)企業秩序への具体的な侵害・実害があったか
たとえば、次のような事情があれば処分が認められやすくなります。
- 職務専念義務違反(たとえば、勤務時間中に社用メールやチャットで私的なやり取りを繰り返していた、社外で密会していた)
- 公私混同(たとえば、会社の経費をデート代に使っていた、職権を乱用して相手を優遇した)
- 職場環境の悪化(たとえば、配偶者が会社に乗り込み業務妨害が生じた、不倫関係のもつれで社内の雰囲気を著しく悪化させた)
- 企業評価の毀損(たとえば、取引先との不倫や、制服姿での不貞行為などにより、会社の信用を傷つけた)
処分の内容としては、まずは「けん責(厳重注意)」から始まり、配置転換(当事者を離す)、減給、出勤停止などが検討されます。
懲戒解雇が認められるのは、横領を伴う場合や、再三の注意にもかかわらず関係を続け、業務に甚大な損害を与えた場合など、極めて悪質なケースに限られます。
実務上多いのは、懲戒処分ではなく、「人事異動(転勤や部署異動)」による環境調整です。懲戒ではなく人事権の行使であれば、業務上の必要性が認められる限り、比較的実施されやすいです。
総じて言えば、「社内不倫禁止」の規定で、不倫を完全に防ぐことは難しくても、会社が「業務優先」の姿勢を示し、いざ問題が起きた際の指導や対応の根拠とする意味は十分にあるといえるかもしれません。