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上司の休日LINEが辛い「連休明けに資料を出すように」、これってパワハラじゃないの?
休みに仕事の連絡が来ると落ち着かない(kapinon / PIXTA)

上司の休日LINEが辛い「連休明けに資料を出すように」、これってパワハラじゃないの?

みなさん、ゴールデンウィークはしっかり休めていますか。弁護士ドットコムには「休みの日なのに上司から仕事の連絡がくる」といった相談が複数寄せられています。

たとえば、休日関係なく、職場のグループLINEに仕事の連絡がきて「精神的にまいっている」「パワハラにあたらないのか」といった内容です。

たしかにLINEはプライベートとの境があいまいになりがち。上司から送られてくれば「未読スルー」しづらいかもしれません。

これが積み重なっていけば、メンタルに不調をきたす人もいるでしょう。法的には問題ないのでしょうか。前野陽平弁護士に聞きました。

●LINEの内容、送信回数や時間帯も考慮される

――休日なのに上司からLINEが送られて来るという相談です。「パワハラ」にあたるでしょうか?

パワーハラスメント(パワハラ)に該当するか否かについては、ケースバイケースの判断になると考えられます。

一般的に、パワハラとは、(1)職場における優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものと理解されています。

そして、パワハラに該当する具体例として、(a)身体的な攻撃(暴行・傷害)、(b)精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)、(c)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)、(d)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)、(e)過少な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)、(f)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)が挙げられています。

なお、(a)~(f)は、あくまで具体例であって、これら以外にもパワハラに該当する可能性はありますので、ご注意ください。

以上を前提として、今回のご相談について、検討してみます。

上司からのLINEの内容が明らかではありませんが、たとえば「呑気に休みやがって」「お前なんてやめちまえ」「お前は無能だ」「お前なんていつでもクビにできる」など、単に部下の人格や尊厳を傷つけるような内容であれば、当然、パワハラに該当します((b)精神的な攻撃)。

では、業務に関連する内容であれば、どうでしょうか。たとえば、業務を指示しつつも、「休日明けの対応で大丈夫です」「しっかり休んだうえで休日明けに対応をお願いします」「休日中の返信は不要です」などといった内容が記載されている場合であれば、パワハラに該当する可能性は低くなると考えられます。

一方で、緊急の仕事ではなく、休日明けの対応でも何ら支障はないにもかかわらず、「休日中に対応するように」「休日明け早々に成果物を出すように」などといった内容のLINEが送られてきた場合は、パワハラに該当する可能性が高くなると考えられます(あえて分類すれば、(d)過大な要求や(f)個の侵害といえるでしょう)。

以上のように、パワハラに該当するか否かについては、LINEの内容はもちろんのこと、送信回数や時間帯なども考慮のうえ、ケースバイケースで判断されると考えられます。

そして、パワハラに該当し、民法上の不法行為責任や債務不履行責任が認められる場合、上司や使用者は部下に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

画像タイトル 休日なのに仕事のLINEがきて精神的にまいった人((画像は生成AIで作成))

●休日の連絡はストレスでリフレッシュできない

――パワハラ以外で法的問題にあたりますか?

上司が休日(厳密には週1回の法定休日)にLINEで業務を指示し、部下がそれに応じて実際に業務に従事した場合、使用者は通常の賃金に加えて法定の割増賃金(35%以上)を支払う必要があります。

また、やや極端な例かもしれませんが、形式的には休日と言いつつも、自宅で待機することや、上司からLINEで業務の指示がされたときにその指示に従って業務に従事することが義務づけられているような場合は、もはや休日とは言えません。

労働時間(労働者の指揮命令下に置かれている時間)に該当すると判断される可能性があり、この場合も使用者は通常の賃金に加えて法定の割増賃金(35%以上)を支払う必要があります。

――昨今、「つながらない権利」が注目されていると聞きますが、簡単に教えてもらえますか?

現時点で明確な定義はありませんが、「つながらない権利」とは、勤務時間外に仕事上の電話やメールの対応を拒否することができる権利のことをいいます。

2024年11月、厚生労働省は、労働基準法等働き方そのものの見直しについて「労働基準関連法制研究会」に議論のたたき台となる資料を提出しましたが、その中で、「つながらない権利」の社内ルールについて、労使の話し合いを促進していくための方策を検討することが必要であると明記されました。

この点、私見ではありますが、仮にパワハラに該当しないとしても、休日の連絡自体が部下にとってはストレスとなり、リフレッシュできない可能性がありますので、緊急を要する場合でない限り、休日中の連絡はできる限り控えたほうがよいと考えます。

また、「休日中のLINEには原則として返信する必要がないこと」などを日頃から周知徹底しておくことも重要であると考えます。

今後、「つながらない権利」が法制化されるか否かは不明ですが、それにかかわらず、使用者のみなさまにおかれましては、休日の連絡に関する社内ルールを今一度見直すことが推奨されるでしょう。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

この記事は「みんなの法律相談」に寄せられた実際の相談をもとに、新たに弁護士の解説を追加して作成しています。

プロフィール

前野 陽平
前野 陽平(まえの ようへい)弁護士 堂島法律事務所
大阪大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。堂島法律事務所に入所後、三井物産株式会社、経済産業省・中小企業庁(内閣官房・フリーランス法制準備室を併任し、フリーランス保護新法の立案作業を担当)へ出向。企業法務全般、労務、M&A、知財案件等を多数取り扱っている。

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