「歓送迎会で、部下に一方的に殴られた」──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者によると、同僚たちと一緒に開いた自由参加・会費制の歓送迎会で、部下とのいざこざから暴行を受けたそうです。翌日に診断書を取り、警察に被害届を出しました。
会社の飲み会でのケガは、労災になるのでしょうか。林本悠希弁護士の監修で解説します。
●自由参加の飲み会は「プライベート」 労災のハードルは高い
労災(業務災害)と認められるには、大きく2つの条件があります。会社の支配下にあったこと(業務遂行性)と、ケガが業務に起因していること(業務起因性)です。
会社の飲み会で殴られた場合、業務起因性が認められるかは、飲み会への参加が業務遂行性を備えていたか、および暴行による負傷が、事業主の支配下にあることに伴う危険の現実化といえるかによって判断されます。
会社主催で、開催時間・場所、費用負担、参加状況、参加の事実上の強制または業務上の必要性などから会社の支配下にあったと認められる場合には、業務遂行性が肯定される余地があります。
もっとも、業務遂行性が認められても、暴行が業務と無関係な個人的な恨みや私的な喧嘩に基づくものであれば、業務起因性は否定され得ます。
飲み会が「業務」といえるかは、参加が強制されていたか、会社が主催し費用を出していたか、などで判断されます。
今回のように自由参加で会費制の歓送迎会であれば、私的な会合と評価される可能性が高いと言えます。参加が事実上強制で、会社が費用負担していれば、業務と判断される可能性もあります。
飲み会後の事故を労災と認めた最高裁判決(最高裁判所第2小法廷平成28年7月8日判決)もありますが、上司の強い要請で仕事を中断して参加し、職場へ戻る途中だったという特殊なケースで、本件と関連性が高いとはいえません。
最終的に判断するのは労働基準監督署ですが、その場で仕事の話をしていたとしても、飲み会自体に業務性がなければ、業務起因性が否定され、労災と認められるのは難しいでしょう。いずれにしても、暴行に至った経緯を含む具体的な事情が重要になります。
●殴った部下には治療費・慰謝料を請求できる
労災にならなくても、殴った部下に対しては、治療費や慰謝料などの損害賠償を請求できます。被害届による刑事手続きとは別に、民事で請求することになります。
また、労災の判断とは別に、会社に対しても、理論上は使用者責任(民法第715条第1項)を問える可能性はあります。ただ、この使用者責任の判断においても、業務執行性等、労災の判断と同じような要素が問題になりますので、留意が必要です。