「両親からの相続を放棄します。荒れ放題の実家を片付けなくてもよいのでしょうか」。
最近、父と母を亡くしたという女性から、弁護士ドットコムにこんな相談が寄せられています。
長女である女性も、親族もみな、相続を放棄するつもりです。悩んでいるのが、両親が暮らしていた自宅の後片付けです。
「心情的には、他人が後始末をするより自分でしてあげたい」。
そう思う一方で、受け取れる財産はほぼないため、葬儀も女性が負担している状況だといいます。家具や冷蔵庫など、処分に費用がかかるものまで片付ける義務があるのか知りたいそうです。
相続放棄をした場合、実家の片付けはしなくてもよいのでしょうか。相続問題にくわしい竹村公利弁護士の監修で解説します。
●放棄すれば「片付ける義務」はない、ただし「保存」の義務が残ることも
──相続を放棄した場合、自宅を片付ける義務はありますか。
相続を放棄すると、はじめから相続人ではなかったことになります(民法939条)。自宅の土地や建物、家具や家電も引き継がないため、それらを片付けたり、処分費用を負担したりする義務はありません。
ですので、基本的には片付けなくても問題ありません。
ただし、注意したいのが、2023年4月に施行された改正民法のルールです。
相続を放棄した時点で、相続財産を「現に占有」している人は、次に相続する人や、家庭裁判所が選ぶ「相続財産清算人」に引き渡すまで、その財産を保存しなければならないとされました(民法940条1項)。
たとえば、実家に住んでいたり、鍵を預かって管理したりしていれば、この保存義務を負う可能性があります。
もっとも、ここで求められているのは、自分の財産と同じ程度の注意で「今の状態を保つ」ことです。家財を捨てて家を空にすることまでは求められていません。
●「片付けてあげたい」なら要注意、処分で放棄できなくなるおそれ
ただ、相続放棄するけど、心情として、自分で実家をきれいに片付けてあげたいと考える人もいるでしょう。
この場合、気をつけたいのは、相続財産を「処分」すると、相続を承認したものとみなされるおそれがあることです(民法921条)。
相続放棄が認められなくなったり、放棄した後でも無効を主張されたりして、両親に借金などがあれば、それを引き継ぐことになりかねません。
家具や家電であっても、売ったり、まだ使える価値のあるものを捨てたりすることは「処分」とみなされる可能性があります。
一方で、明らかなゴミや、傷んでしまう食品を捨てることは、財産の価値を保つための「保存行為」として、問題にならないと考えられます。写真や手紙など、経済的な価値の小さい思い出の品を形見として持ち帰る程度であれば、通常は問題になりにくいでしょう。
判断に迷うものは手をつけず、放棄の手続きが済むまで待つのが安全です。片付けを進める場合も、事前に弁護士などに相談することをおすすめします。
●誰も相続しない家は「相続財産清算人」が管理
なお、相続人が誰もいなくなった場合、債権者などの利害関係人が家庭裁判所に申し立てると、「相続財産清算人」が選ばれ、自宅などの財産の管理や清算を進めることになります(民法952条)。