「奨学金の返済があるなら結婚できない」
結婚目前で婚約者から“非情な宣告”を突きつけられた女性から、弁護士ドットコムに相談が寄せられています。
女性は婚約指輪の購入や式場の予約、親族への挨拶も済ませ、幸せの絶頂にいたそうです。
しかし、月々数万円の奨学金返済の存在を理由として、婚約者から突然「全額返済するまで白紙」と告げられたといいます。
女性の奨学金の総額は800万円にのぼるそうですが、婚約者には返済計画をきちんと説明し、合意の上で交際してきたと主張します。
式場予約まで済ませた段階で、すでに説明していた奨学金の返済を理由として、婚約を破棄された場合、慰謝料など精神的苦痛や式場のキャンセル料などの損害賠償を求めることは可能でしょうか。男女問題に詳しい大西信幸弁護士が解説します。
⚫︎ 結論「婚約者の男性側への賠償請求が認められる可能性は高い」
結論から申し上げますと、今回の相談のように奨学金の存在や返済計画について事前に説明がなされ、双方の理解のもとで婚約に至っているにもかかわらず、結婚準備が具体的に進んだ段階で一方的に婚約を破棄された場合には、慰謝料に加え、式場キャンセル料などの現実に生じた損害についても、賠償請求が認められる可能性は十分にあると考えられます。
⚫︎一方的な婚約破棄は賠償の対象となりえる
婚約は単なる交際関係とは異なり、将来の婚姻を前提とした法的に保護される関係と位置付けられています。
そのため、正当な理由なく一方的に婚約を破棄した場合には、不法行為として慰謝料のほか、式場のキャンセル料や結婚準備の費用といった損害の賠償が認められる可能性があります。
ただし、奨学金約800万円という金額は、一般的に見ても小さくはなく、結婚後の生活設計や家計への影響を懸念すること自体には一定の合理性があります。
奨学金は返済義務を伴う以上、法的にも広い意味で「負債」に含まれるもので、結婚の可否を判断する際の重要な要素となり得ることは否定できません。
⚫︎交際当初から説明をうけて了承していたなら
もっとも、法的評価において決定的に重要なのは、その事情が婚約に至るまでにどの程度共有され、2人の間でどのような認識・合意が形成されていたかという点です。
交際当初から奨学金の額や返済計画について具体的に説明し、相手がこれを理解・了承したうえで婚約に至っているのであれば、後になって同一の事情を理由として婚約を解消することは、法的にも正当化されにくく、正当な理由とは評価されにくいと考えられます。
⚫︎式場予約まで済んでいた…「信頼関係を著しく害する」
特に、今回は、婚約指輪の購入や式場の予約、親族への挨拶といった、社会通念上も婚約の成立を裏付ける具体的な準備が進んでいる段階において婚約破棄がなされたというケースです。
このような場合には、当事者間の信頼関係を著しく害する行為と評価されやすく、その違法性はより強く認められる傾向にあります。
もっとも例外として、当初の説明と実態に重大な齟齬があった場合や、返済負担が想定を大きく超え、共同生活の維持が著しく困難となるような新たな事情が判明した場合には、婚約破棄に一定の正当性が認められる余地もあります。この点は、個別具体的な事情を踏まえて慎重に判断されることになります。