勤務先でのセクハラを理由に降格処分をうけ、遠方に転勤することが決まった。そんな夫と離婚したいという専業主婦からの相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
小学生までの子どもたちを育てる相談者によれば、夫から「近いうちに遠方に転勤になった」と告げられたといいます。急な話に驚いていたところ、自宅で見つけた「降格処分の通知」から“真相”がわかったそうです。
実は夫は、女性社員に「豊胸手術をしたほうがいい」といった発言を繰り返していたようです。ほかにも、ひどいセクハラ発言もあったとされます。
相談者は夫についていく気持ちを失い、離婚と慰謝料を真剣に考え始めています。
もしこうしたセクハラ発言と降格処分が事実であれば、離婚の理由になるのでしょうか。職場セクハラが家庭に波及するリスクは決して他人事ではありません。この問題について、離婚・男女問題に詳しい山口政貴弁護士に聞きました。
●セクハラ発言による降格人事は離婚事由になるか
——夫のセクハラ発言と降格人事が事実だった場合、離婚事由として認められるのでしょうか。
そもそも夫婦の一方から離婚を請求する場合は、民法に定める離婚事由がないと離婚をすることができません。民法上の離婚事由は5つです。
(1)不貞行為(「不倫」のこと)
(2)悪意の遺棄
(3)3年以上の生死不明
(4)強度の精神病
(5)婚姻を継続し難い重大な事由
本件では(1)~(4)は関係ありませんので、セクハラ発言による降格人事が(5)の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかが問題となります。
一般論として、夫が降格したというだけでは「婚姻を継続し難い重大な事由」には該当しない可能性が高いです。
降格して収入が下がったとしても、生活できる収入を得られるのであれば婚姻関係を継続できるからです。
しかしながら、降格の理由が社内での不倫やセクハラ行為であれば話は別です。
社内不倫であれば、そもそも(1)の「不貞行為」に該当します。
また、セクハラは現在は重大な問題行為になっていますので、軽微なセクハラ行為であればまだしも、降格になりうるようなあまりにもひどいセクハラ行為や降格は(5)の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性はあり得るでしょう。
●「社内の問題は関係ない」夫からの反論への対応は
——離婚を切り出された夫からはどのような反論が予想されるでしょうか。
「セクハラ行為は社内のことなので家庭には関係ない。家庭内で問題行為を起こしていないのだから離婚請求が認められるのはおかしい」という夫からの反論が予想できます。
そのような場合はやはり夫と別居するほかないでしょう。
別居期間が続き、復縁が困難な状況となれば、別居期間が長期間続いているという事実で「婚姻を継続し難い重大な事由」と判断される可能性が高くなってきます。
離婚事由かどうかは別として、セクハラ発言は今や完全な違法行為であり、「冗談だった」という釈明では済まされません。セクハラ発言で周囲の人を悲しませないように十分に配慮すべきかと思います。