「家庭を壊した“元凶”を不幸にさせたい」。夫に社内不倫をされたというサレ妻の女性が、SNSでこんな気持ちを打ち明けていました。
不倫を夫を問い詰めたところ事実を認め、夫は不倫相手とも別れたとのことです。しかし、不倫相手は夫と別れた後、会社を辞めることなく婚約者と結婚したそうです。
不倫で夫との信頼関係を壊された女性は、社会的制裁を受けることなく幸せに暮らしている不倫相手のことが許せないといいます。そこで「復讐」するために、不倫相手の夫にバレれるよう、到着のタイミングを見計らって、不倫相手の新婚家庭に慰謝料請求の内容証明を送りたいと考えているそうです。
弁護士ドットコムにも、社会的制裁や相手の配偶者に知らせるために、いつ、どのタイミングで慰謝料請求の内容証明を送ればよいかという相談が多数寄せられています。しかし、一歩間違えると、被害者であるサレ妻側が名誉毀損に問われるリスクもあります。
違法にならないよう慰謝料請求をするにはどうしたらよいのでしょうか。離婚問題に詳しい水谷江利弁護士に聞きました。
●不倫相手の家族や友人に不倫を暴露したら?
——不倫相手の配偶者に「あなたの妻が婚前に不倫をしていましたので、慰謝料請求をします。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」といったメッセージを直接伝えることに問題はありますか。
本件は、法律上「ご自身←→ご主人の元不倫相手の女性」の間の事柄です。
つまり、「元不倫相手の女性」の「今の配偶者」は本件とは無関係。お気持ちとしてはわかりますが、「元不倫相手」の過去の事実を無関係の今の配偶者に伝えると、「プライバシーの侵害」(不法行為の一つ)になる可能性があります。
実際に、夫に不倫された女性が、不貞女性の父親らに、ハガキや手紙、不倫の証拠を送付したことについてプライバシー侵害を認めた裁判例があります(東京地裁令和2年2月10日判決)。この裁判例では、これらのハガキなどは、「被告(不貞女性)が不貞行為に及んでいると認識されるもので、名誉毀損にあたる」などとして、慰謝料合計33万円を不貞女性に払うよう命じました。
また、別の裁判例でも、不倫男性が不倫相手の夫が、不倫男性の妻に不倫事実を暴露したり、不倫男性につきまとって謝罪文の要求をして、不倫男性の生活の平穏を侵害したとして、20万円の慰謝料の支払いを命じられています(東京地裁令和元年10月24日判決)。
●不倫相手の自宅に送ること自体に違法性はない
——不倫相手の自宅に慰謝料請求の内容証明を送ることは、問題ないと思われますが、配偶者のいる週末や時間帯に到着するようなタイミングで送ることに違法性はないのでしょうか。
不倫相手の自宅に内容証明を送る場合、それが不倫相手を名宛人としたものであれば、不倫相手による開封を予定したもので、あくまで不倫相手に慰謝料請求をすることを目的としたものですので、それ自体ただちに違法性はないでしょう。
あえて配偶者に知らせないように万全を期すのであれば、「本人限定受取郵便」の指定をして、本人が身分証を提示して受け取れるようにするという手立てがあります。
●不倫相手の職場に内容証明を送ってもいい?
——もしも不倫相手の自宅に送った内容証明の受け取りを拒否された場合、不倫相手の職場に送り直すことに問題はありますか。
自宅に届かないからといってただちに職場に送ることには慎重であるべきです。
「不倫相手」の不倫の事実を、不必要にその職場に伝えると、不特定多数の人に知らしめ、その社会的評価を低下させるものとして、「名誉毀損」(プライバシー侵害同様に、不法行為の一つ)になるからです。
少し過激な事案ですが、妻に不倫された男性が不倫相手が勤めているスーパーのお客様相談室へ電話をして不倫をしていることを告げたりしたとして、男性の「名誉毀損」を認めて11万円の慰謝料を認めた事案(東京地裁平成25年1月17日判決)もあります。
裁判実務上も、「就業場所への送達」は、まず住民票のある住所地または実際にその人がいる居所への送達を試みて、それでも不在か行き先不明で送達ができない場合にはじめて認められるものとされており、ただちに送付することは認められていません。
●不倫の暴露は自分も傷つける結果に
——最近は、SNSで夫の不倫相手を暴露する女性もいます。不倫相手への慰謝料請求で違法にならないためのアドバイスをお願いします。
実際に、不倫の事実を職場に知らせたい、親に知らせたい、というご相談は多くあります。
しかしながら、プライバシー侵害や名誉毀損の問題を呼び、被害者のはずが加害者に回ってしまうことになるので、弁護士としてはとてもお受けできないしおすすめできないとお話することになります。
実際に慰謝料請求の訴訟でも相手からプライバシー侵害や名誉毀損で反訴をされる事例もあります。
「社会的制裁」として不倫相手の職場や家族に不倫を知らせることは、すでに傷ついたご自身をより傷つけることにつながります。特にSNSなどでの拡散は決してしないように注意しましょう。