ネット上で「ブス、デブ、虚言癖、頭が悪い」などと誹謗中傷を受けているのでなんとかしたい──。女性からこんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
女性は、源氏名を使う店舗で働いています。誰がどのような理由で誹謗中傷しているのかが不明ですが、勤務先の店名や源氏名のほか、住んでいる県名までネットに書き込まれているようです。
子どもを持つシングルマザーであることをとらえ、「親に似てブサイク」と子どもの悪口を書かれることも。「客の子どもを妊娠・出産した」「虐待、育児放棄している」など事実無根の中傷被害にも被っており苦しんでいます。
知人には「ほとぼりが冷めるまで無視した方がいいのでは」とアドバイスされたそうですが、積極的に対処することも検討しているようです。法的な救済手段は何かあるのでしょうか。櫻町直樹先生に聞きました。
●「侮辱」に当たるかどうか
──今回のようなネット上の書き込みをした場合、どのような責任が発生しますか。
「ブス、デブ、虚言癖、頭が悪い」といった表現については、民事上の不法行為としての侮辱、刑法上の侮辱罪(刑法231条)が成立する可能性があります。
不法行為としての侮辱(以下単に「侮辱」といいます)は、(対象者の)「名誉感情を侵害する」ことをいいますが、名誉感情侵害のすべてが侮辱にあたる訳ではなく、「社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合」に、「人格的利益の侵害が認められ得る」(最高裁平成22年4月13日判決)とされています。
「社会通念上許される限度を超える」かどうかについて、どういった要素に基づいて判断されているのかについては、裁判例においても明確に示しているものがあまり見当たらないという印象ですが、表現に用いられた言葉がどのようなものであるか、表現がなされた文脈、頻度、当事者の関係性、従前の経緯といった要素が挙げられます。
──今回のケースは侮辱(誹謗中傷)に当たりますか。
前述の判例等に照らしてみた場合、「ブス、デブ、虚言癖、頭が悪い」という表現は、言葉自体が人格非難・否定にあたるものであり、言われた方にしてみれば非常に不愉快であって「名誉感情を害する」といえそうです。
もっとも、さらに「社会通念上許される限度を超える」といえるかは、これらの表現がなされた文脈、頻度、当事者の関係性、従前の経緯等などの要素を総合的に考慮して判断される、ということになるでしょう。
なお、裁判例には、「原告を『ブタ』と呼称する記事であると認められ、これと併せて原告の容姿が撮影された画像が掲載されている」という場合について、以下のような判断を示して侮辱の成立を認めたものがあります(東京地裁令和3年3月2日判決)。
「原告の女性としての容姿が劣っているかのような評価を述べるものといえ、このような表現がそもそも一般的にみても著しく侮辱的で対象者に屈辱感を与える表現であることに加え、上記表現が原告の容姿と窺われる画像とともに投稿されていることに照らし、特にその容姿を蔑む内容の投稿であるといえ、単なる揶揄の範囲を超えるものと言わざるを得ない」
●「発信者情報開示請求」などの前提として「証拠保全」が重要
──被害者は積極的に対処しようと考えた場合、どんな手段が考えられますか。
対処の前提として、まずは「証拠保全」が重要となります。
インターネット上の書き込みは、(サイトにもよりますが)削除・改変することが容易ですから、自分に対する誹謗中傷ではないか、という書き込みを見つけた場合には、まずスクリーンショットやウェブ魚拓などで「証拠保全」をするのがよいでしょう。
スクリーンショットで保存する場合は、書き込みの「日時」と「URL」が表示される形でしておかないと、「対象の書き込みが特定できない」ということになる可能性があるので注意が必要です。
なお、スクリーンショット等で保存する前に書き込みが削除されてしまった場合、「内容」が分からないので侮辱などの権利侵害にあたるかどうかの検討がそもそも不可能になります。
もっとも、投稿からある程度の時間が経過している場合は、「ウェイバックマシン」などの(自動で収集する)インターネットアーカイブサイトに書き込みが残っている(保存されている)こともあります。
証拠保全をした上での具体的な対処法として、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(いわゆる「プロバイダ責任制限法」)に基づき、「発信者情報開示請求」をおこなって、投稿者を特定することが考えられます。
また、書き込みがされている媒体(サイト、掲示板、ブログなど)の管理者に対して、「削除依頼」をすることが考えられます。ただし、媒体によって、所定フォームからの請求で削除が可能なものもあれば 管理者の特定から始めないといけないものもあり、ケースに応じた対処が必要といえるでしょう。