4月は小学生に入学したばかりの1年生が通学を始める季節です。新たな学校生活に期待があふれる一方で、交通事故の危険にも直面しています。
警察庁は3月27日、2020年から2024年までの交通事故データを分析した結果を公表しました。それによると、歩行中の子どもの交通事故が、4月から6月にかけて増加する傾向が明らかになりました。
死傷数が最も多かったのが7歳(3436人)で、「下校時」の事故が最多でした。小学校に通学を始める1、2年生が交通事故に遭っており、「魔の7歳」とも言われています。
また、歩行中の幼児や児童の死亡・重傷事故の原因は、「飛び出し」が最多となっています。
弁護士ドットコムにも、小学生の子どもが登校中に飛び出して、車と衝突してしまったという相談が寄せられています。
子どもは足を骨折する重傷を負ったため、保護者は車を運転していた人から、治療費や慰謝料をもらいたいという思いがあるそうです。
突然の飛び出しが原因の場合、子どもと車、どちらの過失が重いのでしょうか。交通事故の問題にくわしい野口辰太郎弁護士に聞きました。
●「飛び出し」は過失が加算されるおそれ
——子どもの事故原因では「飛び出し」が多いという結果になりました。「飛び出し」に法的な問題はありますか。
ここでは民事上の責任に限定して説明しますが、結論から言えば、歩行者の「飛び出し」があった場合、その責任(過失)が加算されるおそれがあります。
歩行者と車の交通事故の場合、どちらにどの程度の過失割合があるかは、道路状況(信号や横断歩道の有無等)や事故態様、歩行者性質、運転手の交通違反の有無など、個別具体的な事情によって決まります。
そして、歩行者の「飛び出し」は、事故発生の危険性を増加させる行為となるため、歩行者の過失割合を加算させるおそれがあります。
一方で、歩行者が幼児(6歳未満)や児童(6歳以上13歳未満)、高齢者(おおむね65歳以上)に該当する場合、道路を歩行するにあたって、判断能力や行動能力が低い可能性があり、車側もそのことを前提として注意しながら運転することが求められるため、歩行者側の過失が軽減されるケースが多いです。
最終的に、「飛び出し」による過失の加算と「幼児・児童」による過失の軽減、どちらが上回るかは、具体的な事故状況次第となります。
●見通しの悪い曲がり角の事故はどうなる?
——先述した相談では、子どもが道路を左折する際に飛び出し、直進してきた車と出会い頭に衝突したとのことです。曲がり角は、車からも子どもからも見通しが悪かったといいます。道路に歩道と車道の区別がない狭い道路で、信号機もありませんでした。こうした場合、子ども側と車側の過失はどのように判断されるのでしょうか。治療費や慰謝料は支払ってもらえるのでしょうか。
治療費や慰謝料などを支払ってもらえる可能性が高いと考えられます。ただし、全額ではなく、過失相殺によって、損害の一部を支払ってもらえない可能性はあります。
相談例の道路状況からすれば、車側は、見通しの悪い交差点を通過する以上、歩行者が出てくることも想定した「かもしれない運転」が必要となります。そのため、子どもの「飛び出し」があったとしても、車側が責任を免れる可能性は低いです。
ただし、車が通過する直前の「飛び出し」などの事情があった場合は、歩行者の過失割合を加算させ、過失相殺によって損害の一部については支払ってもらえない可能性があります。
●「魔の7歳」事故防止には何が必要?
——これから「魔の7歳」と呼ばれる小学校低学年の事故が増える時期になります。事故防止にはどのようなことが必要でしょうか。
交通事故の発生を防止するには、車側と歩行者側の両方の心掛けが不可欠です。
子どもは、大人が想定もしていない動きをします。車側は、そのことを念頭に、通学路や教育施設の付近や見通しの悪い交差点などでは、子どもが飛び出してくる「かもしれない運転」を心掛けていただければと思います。
また、子ども、そして保護者に対しては、子どもの交通安全意識は一朝一夕に身につくものではありません。「右見て、左見て、もう一度右見て」の確認や、道路を横断するときは手を挙げるといった当たり前のことを家庭でも取り組んでいただければと思います。