「パワハラ」は職場だけの問題なのでしょうか。保護者会やボランティア団体が、逃げ場のないハラスメントの場と化すケースもあるようです。
弁護士ドットコムに相談を寄せた女性によると、子どもが所属する野球チームの保護者会で、ある「有力な保護者」から執拗な攻撃を受けているといいます。
グループLINEから排除されたり、些細なことで怒鳴られたりするほか、無視されることもあるそうです。
さすがに異変を感じた周囲の保護者たちは同情的ですが、ボス的な立場の「有力者」を恐れ、誰も公然と批判できない状況だとか。
女性は、こうした攻撃の背景について、親の学歴や子どもの学力への嫉妬があったのではないかと推測しています。
雇用関係や金銭のやり取りもない野球チームの保護者会であっても、こうした嫌がらせは「パワハラ」と言えるのでしょうか。スポーツにおけるパワーハラスメントの問題にくわしい山本健太弁護士に聞きました。
●「職場のパワハラ」「スポーツのパワハラ」とは
──子どもの野球チームの保護者会で、無視やグループLINEからの排除、怒鳴るといった行為は、職場ではなくても「パワーハラスメント」にあたるのでしょうか。
まず、「パワーハラスメント」の意味・定義を正確に理解する必要があります。
「職場におけるパワーハラスメント」は一般的に、職場において行われる、
(1)優越的な関係を背景とした言動であって
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
(3)労働者の就業環境が害されるもの
──という3つの要素をすべて満たすものと定義されています。
また、「スポーツにおけるパワーハラスメント」は、一般的に、同じ組織(競技団体、チーム等)で競技活動をするものに対して、職務上の地位や人間関係などの組織内の優位性を背景に、指導の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、またはその競技活動の環境を悪化させる行為をいいます。
さらに、競技団体ごとに、独自の定義を設けている場合もあります。スポーツのパワハラ事案を調査する第三者委員会の調査報告書でも、その定義をどうするか検討されることが多いと思います。
ただし、基本的には
(1)優位性の存在
(2)適正な範囲を超えていること
(3)精神的・身体的苦痛、または競技環境の悪化が生じていること
──この3点が柱にされていると思います。
したがって、まず、どの定義を前提に検討するかという観点が大切です。
●保護者はスポーツにおける「競技活動をするもの」といえるか
仮に上述の「スポーツにおけるパワーハラスメント」の一般的な定義を前提とした場合、「競技活動をするもの」に「指導等に直接関与していない選手の保護者」は入るのかという論点がでてきます。
近年、スポーツの役割として「する」「見る」「支える」「集まる」「つながる」といった多面的な観点が指摘されています。しかし、この定義の文言からすると、「競技活動をするもの」に「指導等に直接関与していない選手の保護者」を“含める”と解釈するのはなかなか難しいかもしれません。
そうすると、この一般的な定義を前提にすれば、指導等に直接関与していない選手の保護者同士の問題は、「スポーツにおけるパワーハラスメント」には該当しないとの結論になるように思います。
●パワハラにならなくても「違法行為」にあたるか
ただし、私たち法律家の視点から重要なのは、「パワーハラスメント」に該当するかどうかというラベルだけではなく、その言動が法的に「違法行為」と評価できるかという点です。
違法行為には、民事上の不法行為や、刑罰規定に該当する行為などがあります。
民事上の不法行為との関係では、いわゆる「嫌がらせ」や「意地悪」が、人格権侵害にあたるかどうかという点が問題になります。その際、社会一般から見て「権利侵害」といえる程度に達しているかは一つの論点となるでしょう。
刑事責任の可能性としては、たとえば、名誉毀損罪、侮辱罪、暴行罪などが考えられます。ただ、刑罰規定の要件は厳格なので、慎重な検討が必要です。
不用意に「◯◯さんは××罪に当たることをした!!」と不特定または多数人に伝えた場合、かえって名誉毀損罪に問われてしまう可能性もあるので、気を付けなければなりません。
このように、問題の本質は「パワーハラスメントに該当するか」だけではなく、法的に「違法行為と評価できるか」にあります。
●競技団体の代表者に対策に乗り出してもらう方法も
──保護者会やボランティア団体で、このような嫌がらせ行為を受けた場合、どのように対応すればよいでしょうか。
スポーツ指導者によるパワハラであれば、法的な対応に加えて、その指導者が競技団体の資格を有していれば、競技団体に「指導者資格」に対する処分を求めることを検討します。
しかし、指導に関与していない保護者は、通常そのような資格を有していないことがほとんどでしょう。
そのため、保護者への対応は、基本的には法的観点からアプローチすることになります。
ただし、いきなり法的手段をとれば、チーム内がギクシャクし、その影響が我が子の競技活動に及ぶのではないかという懸念もあると思います。
この問題の解決にあたっては、私自身も「これが良い」という対応策を明確に打ち出すことが難しいと感じています。
それでも、一つ検討しても良い方法としては、代表者など競技団体の管理者や運営者に相談し、「競技団体として」の対応を検討してもらう方法があるかもしれません。
ただし、この場合も、憶測ではなく、十分な証拠に基づいて事実関係を整理することが重要です。また、不特定または多数人への発信は避けるべきといえます。