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町内会「退会しても費用請求」はアリ? 役員は「やめても恩恵を受けている」と主張
画像はイメージです(kaka / PIXTA(ピクスタ))

町内会「退会しても費用請求」はアリ? 役員は「やめても恩恵を受けている」と主張

「町内会をやめた人からも会費を請求できないか?」。約200世帯の町内会で役員を務める方から、弁護士ドットコムに相談が寄せられました。

相談者は「町内会費で街灯のメンテナンス費や電気代、草刈り費用、ゴミステーション修繕費などを賄っているが、退会者もこれらの恩恵を受けている」と指摘。また「マンションの共益費は退会者にも請求できるという最高裁判例があると理解している」として、町内会でも退会者に対して共通費を徴収できないかと質問しています。

一戸建て中心の地域ですが、高齢化や若者世帯の増加により「退会者が約3割に達している」といい、役員としては費用負担を退会した人にも求めたいようです。

このような場合、「会費分の恩恵は受けている」として、退会した人にも会費を請求することはできるのでしょうか。町内会の問題に詳しい伊庭裕太弁護士に聞きました。

●一般論としては、町内会の「共通費」の強制徴収は困難と考えられる

——町内会退会者に対して「共通費」の徴収は法的に可能でしょうか?

まず、町内会の「共通費」とは町内会費のことを意味し、地域の共同活動や施設維持のため、町内会加入者全体で負担する費用のことを意味します。この町内会費については、多くの町内会が任意団体であり、原則として加入や町内会費の支払いを強制する法的根拠はないとされます。

したがって町内会退会者から「共通費」すなわち町内会費を徴収することは、後述のとおりケースによりますが、原則として困難ということになります。

●相談者の指摘する最高裁判例との関係は?

相談者が指摘したのは、マンションの共益費に関する最高裁判例(最判平成17年4月26日第三小法廷判決)かと思います。

公営住宅の入居者で構成される自治会について、これが本件で問題となる町内会と同じ「権利能力なき社団」(任意加入団体)に該当することを前提に入退会の自由を認めながらも、退会者に対する共益費の支払義務は消えないと判断したものです。

各入居者の共益費負担義務を肯定した理由したのは、次の事実経緯があったためです。

①共益費が公営団地の共用施設を維持するための費用であり、 ②公営団地の管理義務を行っていた公社は自治会及び各入居者に対して、各入居者は共益費を自治会に対して支払う(そして自治会は各入居者から徴収した公営団地全体の共益費を一括して業者等に支払う)よう指示していたこと、 ③そして自治会及び入居者は従前よりこの指示に従っていたこと。

要するに最高裁判例は、共用施設の施設管理費用(共益費)について、当該自治体と入居者との個別的な合意に基づき共益費の負担義務を認めたものといえます。

●「一戸建て住宅地の町内会」にマンションの共益費に関する最高裁判例が適用されるか?

前提として、分譲マンション(区分所有建物)の場合、通常、共益費はマンションの区分所有者が加入する管理組合によって請求されるものですが、このマンション管理組合は区分所有法3条に基づき、区分所有者全員で構成される強制加入の団体です。

マンション管理組合との関係では、各区分所有者は、その共有持分割合に応じて共益費を負担し(区分所有法19条)、具体的には管理規約に基づき管理費や修繕積立費等の支払義務を負います。

これに対し、「一戸建て住宅地の町内会」というご相談の具体的な詳細ははっきりしませんが、居住者が任意加入する性質の自治会、町内会等であると考えられます。これは、マンション管理組合とは異なる性格の団体となります。

もっとも、先ほど申し上げたとおり、平成17年の最高裁判例は、あくまでも個別的な合意にもとづいて共益費の負担義務を認めたものと考えられます。

そこで、この判例のロジックは徴収元である団体の法的性質には必ずしも左右されないと解されます。

したがって本件においても、上記最高裁判例のロジック自体は適用されると考えられます。

●最高裁判例のロジックによって「共通費」を徴収することは可能か?

町内会規約における退会制限の有無にかかわらず、上記最高裁判例のロジックにならい、その加入者と町内会との間の個別的合意に基づき共通費(ただし共用施設の維持管理に関する共益費の部分に限る。)を徴収する可能性はあると考えます。

現に令和7年4月16日の福井地裁判決(令和5年(ワ)第273号)は、町内会の退会者に対して、自治体が管理するゴミステーションの使用量相当額の支払義務を認めました。

これは、町内会に加入しているか否かにかかわらず、住民がゴミステーションという公共インフラを使用するにあたり、使用料相当額の支払合意が存在していることを前提にするものと理解できます。

ただし注意するべきは、かかるゴミステーションの利用については、それを利用しなくとも住民において個別的に行政にゴミの集荷を依頼する等の対応の余地があるということです。  本件においても、町内会の管理する公共インフラの利用に関して個別的合意を根拠に共通費の徴収を行うことは可能ですが、その対象はあくまでも住民の主体的な利用意思が確認される必要があるものと考えます。

●退会者も「恩恵」を受けているのでは?

相談者は、「町内会の退会者も、街灯や美化活動の恩恵は受けており、これを理由として退会者に費用負担を求めることは適切」と考えているようです。

「街灯や美化活動の恩恵」の具体的内容によりますが、公共インフラの主体的な利用というよりも、住民において町内会の活動による恩恵をいわば反射的に受けているというだけでは、退会者にその費用負担を求めることは困難ではないかと考えます。

あくまでも退会者による公共インフラの主体的な利用意思が確認される必要があるのではないでしょうか。

●町内会が退会者への共通費徴収を検討する場合の注意点

相談者ができることとして、以下の対応が考えられます。

町内会側としては、「共通費」という概括的かつ抽象的な括りで退会者への費用負担を求めることはできず、個別具体的な公共インフラの利用内容に応じて退会者に対する徴収の是非を検討する必要があります。

他の町内会所属者と同じ金額の共通費(通常、親睦費等の名目費用も含まれます。)の支払いがなければ公共インフラの利用を認めない、との強硬な対応を示すことは、退会者にとっては事実上の加入強制を意味し、入退会が自由であるとの町内会の法的原則に反するおそれがあります。

そこで町内会としては、例えば市町村のごみ集積所の管理運営は地域住民の協力により成り立っており、町内会(自治会)がその管理運営を担っていることが多い実情に鑑み、そのサービスの維持を継続するためにも共通費の支払いを継続してほしい旨伝え、個別に退会者の承諾を得て費用徴収をする必要があります。

あるいは、具体的な公共インフラサービスの利用に関して、事前に費用負担に関する規定を設けておき、それを対象住民に周知しておくことも考えられます

他方、退会者においては、確かに共通費の支払義務は原則としてないのですが、必要な公共インフラの利用に関しては費用負担が発生する可能性があることを考慮し、当該インフラの維持管理は町内会が担っているのか、その具体的な利用額はいくらかを町内会に確認のうえ、町内会を通さず個別的に行政サービスを利用した場合と比較して利用の是非を検討すべきでしょう。

もっとも、少なからず退会者も公共インフラにかかる地域サービスの恩恵を受けていることに鑑みれば、主体的に一定の費用負担を認めるという対応が、円滑な住環境の維持という観点からも望ましいかもしれません。

このように、本件は種々の難しい論点をはらんでおり、確たる見解もないところではありますが、双方ともに地域の実態に即した柔軟な解決が望まれる問題であるといえます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

この記事は「みんなの法律相談」に寄せられた実際の相談をもとに、新たに弁護士の解説を追加して作成しています。

プロフィール

伊庭 裕太
伊庭 裕太(いば ゆうた)弁護士 高樹町法律事務所
アート・メディア・エンターテイメント業界を中心とした企業法務全般(紛争処理、顧問業務等)を主に扱う一方、企業・個人を問わず一般民事全般(労働、家事、相続等)を広く取り扱う。依頼者と共に妥協なき最善の解決を目指す。

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