「高校生の息子が性被害の加害者として被害届を出され、警察に事情を聞かれています」という相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
今後どうなるかは捜査してみないとわからない状況のようですが、相談者は、息子の将来を考えて相手方と示談交渉をしたいと考えています。しかし、「警察では性被害なので被害者の連絡先は教えられないと言われてしまっている」とのこと。
相談者としては、早期に被害者側に謝罪して、示談を進めたいと考えているようです。どのような方法が考えられるのでしょうか。
●被害者の連絡先は警察から開示されないのが原則
性被害の事案において、加害者側が示談交渉を進めたいと希望しても、相談事例のように警察が被害者の連絡先を加害者側に教えることは基本的にありません。これは、被害者のプライバシー保護や、加害者側による不当な接触や二次被害の防止といった観点から、当然の対応と言えます。
しかし、示談は、加害者側の反省を示すとともに、被害の回復につながる重要な手段です。また、未成年である高校生のお子さんの将来を考えた場合、示談の成立は、その後の少年審判などにも大きく影響する要素となります。
●弁護士を「弁護人」として立てるのが第一歩
このような状況で、被害者と連絡を取って示談交渉を進めるために最も現実的な方法は、弁護士に依頼することです。
まず、お子さんの刑事事件の「弁護人」として、弁護士を選任します。弁護人は、警察などの捜査機関や裁判所に対して、法的な根拠に基づいた活動を行うことが認められています。
弁護人が選任された後、弁護人から警察などに連絡を取り、被害者に対して「弁護人に連絡先を教えて良いか」という問い合わせをしてもらうよう依頼します。被害者自身がこれに同意した場合に限り、捜査機関から弁護人に被害者の連絡先が伝えられることになります。
●被害者情報が漏れる心配を軽減する配慮
被害者にとっては、自分の連絡先が加害者側に伝わることへの強い不安があるのが一般的です。しかし、弁護人が被害者から連絡先を知った場合、その被害者の情報を加害者側(依頼者である息子さんやご家族)に対しては一切教えないこととされるのが通常です。
これは、弁護士には守秘義務があります。被害者としても、連絡先が加害者本人には知られないという安心感があるため、この方法であれば示談交渉に応じてもらいやすくなるというメリットがあります。
もちろん、被害者の意思が固く、弁護人にも連絡先を教えないことはありますし、示談交渉をしてもうまくいかないこともあります。お金を払って弁護人を選任しても、示談ができない可能性がある点には注意してください。
なお、相談者の息子さんが逮捕・勾留されて身柄を拘束されている場合には、国選弁護人をつけることができる可能性があります。この場合は費用がかからない可能性があります。
●具体的な対応策と注意すべきポイント
相談者が取るべき具体的な対応策と注意すべきポイントは、以下のとおりです。
すぐに弁護士に相談する
被害者への謝罪と反省の意を示す準備をする:示談交渉に入る前に、弁護士を通じて謝罪の意を伝えられるよう、ご本人やご家族が深く反省し、誠意をもって対応する姿勢を整えておくことが重要です。謝罪文などを用意し、被害者に渡すこともあります。
示談金の準備:具体的な金額は事案や交渉によりますが、示談交渉が始まった際にスムーズに進められるよう、ある程度の示談金(賠償金)の準備を進めておくことが一般的です。
なお、示談金の金額はケースバイケースです。衣服の上から軽く触った、というケースなのか、不同意性交等罪などに該当するようなケースなのか、被害者の態度や加害者側の資力の問題もあるでしょう。しかし、数十万円以上は覚悟した方が良いでしょう。
また、「分割払いできないか」というご相談も良く受けますが、被害者はほとんどの場合、加害者側とできるだけかかわりを持ち続けたくないと考えているため、一回払いを前提に考えるべきでしょう。