お酒の席で腕相撲に興じたところ、自分の腕を骨折してしまった。対戦相手に治療費は求められるのだろうかーー。弁護士ドットコムにそのような相談が届いている。
「居酒屋で飲んでいて、まったくの他人と腕相撲をし、腕を骨折しました。1週間の入院と手術と3カ月の休業です。相手のことを加害者とまで思いませんが、治療費を請求できるのでしょうか」(相談者)
過去には、俳優の中尾明慶さんが友だちと腕相撲で遊んで骨折したことから、妻の仲里依紗さんに怒られたというエピソードをテレビ番組で明かしたこともあった。
お酒を飲んで腕相撲をした結果、「相手を骨折させてしまった」という立場からの相談も寄せられており、酒席での腕相撲はトラブルを引き起こしやすいのかもしれない。
自分も相手も酔った状態で腕相撲をしたことが原因で骨折した場合、相手に治療費は求められるのだろうか。青栁剛史弁護士に聞いた。
●スポーツ中の負傷と同じようなケースとして考えることもできる
——合意のもと腕相撲をして、腕の骨を折られてしまった場合、相手に治療費を請求できますか
治療費が請求できるというためには、不法行為に該当することが必要です。そのためには、何らかの守るべき注意義務に違反した「過失」があることが必要になると思います。
腕相撲が互いに合意のもとで力を伴う動きをすることと考えれば、スポーツ中の負傷と同じように考えることができます。
一般的なスポーツ中の負傷の場合、ルールに則っていれば、相手にケガをさせないように配慮する注意義務があるとまではいえないと理解されていると思います。
もちろん、スポーツ中の負傷だから常に過失がない、というわけではありません。ルールに悪質に反したり、わざと「相手にぶつけてやろう」とか「ケガをさせてやろう」としているとしか思えないプレーは別です。
遊びの腕相撲に厳密なルールがあるか疑問ですが、通常想定されるルールに反しない限り、相手にケガをさせないようにプレーする注意義務まであるとはいえないでしょう。
ここでの「通常想定されるルール」とはすなわち、相手の腕を握り、テーブルなどに肘をついて斜めに腕を伸ばし、お互いが手のひら側に腕を倒すという態様です。
ただし、明らかに力関係に差があるような組み合わせの場合は別です。たとえば、大人が小学生を相手にしていたり、ムキムキマッチョの人が明らかにか細い人を相手にしているような場合です。
思いきり相手の手の甲をテーブルに打ち付けると、手の骨は細いですから、折れやすいことは容易に思いつきますよね。そのような場合では、したたかに、手を打ち付けないように配慮する注意義務があることになりそうです。
こういう場合には、損害賠償の話になり、治療費や慰謝料という話になりますが、自ら危険を冒して腕相撲に臨んでいる場合には、自らケガを招いたともいえますので相当の過失相殺がされると思われます。
——飲み会で盛り上がって腕相撲で相手を骨折させてしまった場合、民事・刑事で法的責任を問われる可能性は考えられるでしょうか
明らかな力量差がある場合には、民事責任を問われる可能性もありますから、お酒や雰囲気に飲まれて、相手とのパワーバランスがわからないような前後不覚な状態になることは、そもそも危ないでしょう。
本当にひどい、イジメのような場合には、傷害罪として刑事責任を問われることもあります。この場合は、煽った周りも責任追及を受ける可能性がありますから、飲み会の席とはいえ、そういうことがわかる判断力は残しておく必要がありますね。