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「カニが部屋に入ってくる」川沿いのアパートに思わぬ侵入者、対策費は入居者の負担になる?
部屋に入ってきたカニ(生成AIで作成)

「カニが部屋に入ってくる」川沿いのアパートに思わぬ侵入者、対策費は入居者の負担になる?

「部屋に小さなカニが入ってくるんです」。川沿いのアパート1階に住む人から、弁護士ドットコムにそんな相談が寄せられました。

ある日、相談者は部屋の中でカニを見かけるようになりました。窓もドアも閉め切り、隙間をふさいでも、どこからか入り込んでくるといいます。

管理会社に対応を求めたところ「お金がかかります」と言われました。どうやら費用は入居者の負担になるというのです。

外から自然に入り込んでくる生き物の対策は、本当に借主の負担になるのでしょうか。坂野真一弁護士に聞きました。

●大家さんには「居住に適する状態にしておく義務」がある

カニは通常、川に生息している生き物ですから、アパートの内部に巣を作っているとは考えにくいと思われます。したがって、相談者の入居後に、外部からカニが侵入してくる状況を前提に話を進めます。

ネズミの侵入をめぐる裁判例(東京地裁平成21年1月28日判決、令和5年2月10日判決など)はいくつかあるようですが、私が調べた限り、小さなカニの侵入に関する裁判例は見当たりません。そのため、賃貸借契約の一般論として考えていきます。

アパートの賃貸借契約では、賃貸人(大家さん)は、賃借人(入居者)に対してアパートを使用・収益させる義務を負っています。わかりやすくいえば、居住に適する状態にしておく義務があるということです。

契約に特別な取り決めがない限り、アパートに構造上の欠陥や設備の不備があり、それによって通常の使用・収益が困難になる程度に害獣や害虫が侵入してくる場合、大家さんにはその侵入防止措置を自らの費用で講じる義務があると考えられます。

画像タイトル サワガニの夏(W.OCEAN / PIXTA)

●アパートの「構造上の欠陥」はあるか

では、今回のようなケースで、そのような義務を大家さんに負わせることができるでしょうか。

この点、小さなカニは、ヘビやネズミ、イタチといった動物とくらべると、社会通念上、住居としての通常使用に支障をきたす害獣とまで言い切れない部分があり、微妙なケースといえるかもしれません。

さらに、小さな生き物の場合は、住人の出入りの際に一緒に入り込んだり、ドアのアンダーカット(通気のための隙間)、換気扇、換気口、排水口、エアコンの配管穴など、居住に不可欠な設備を通じて侵入する可能性があります。このような経路からの侵入だと、アパートの「構造上の欠陥」と断定するのは非常に難しいでしょう。

ただし、もし建物の構造物や設備に通常の居住使用に足りないほどの不備や損傷があり、その箇所からカニが侵入していると明らかにできるならば、大家さんに対して、その部分を修繕し、通常使用に適した状態に戻すよう求めることは可能だと考えます。

(ちなみに、私の実家も田舎の川沿いだったので、よくカニが入ってくることがありました。とはいえ、カニは特に害を及ぼすわけでもないので、チリトリなどですくって、外に逃がしていました)

●アパートの経営的な観点から対応してもらえるかも

以上より、あくまで私の見解ですが、アパートの構造上の明らかな欠陥や不備が原因で、通常の使用・収益ができなくなる程度の害獣や害虫の侵入がある場合を除き、大家さんの費用負担による防止措置を求めるのは難しいと思われます。

ただし、これはあくまで「法的義務があるかどうか」という観点からの話です。

同じアパートの他の住民も、相談者と同じようにカニの侵入に困っているようであれば、複数人で、大家さんや管理会社に対応を求めることは考慮に値します。

大家さんや管理会社にとっても、入居者からの不満が多ければ退去につながり、空室リスクが高まるおそれがあります。法的義務がなくとも、アパートの経営的な観点から、何らかの対応を考えてくれる可能性はあるでしょう。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

この記事は「みんなの法律相談」に寄せられた実際の相談をもとに、新たに弁護士の解説を追加して作成しています。

プロフィール

坂野 真一
坂野 真一(さかの しんいち)弁護士 ウィン綜合法律事務所
ウィン綜合法律事務所パートナー弁護士。京都大学法学部卒。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」(いずれも中央経済社)、「増補改訂版 先生大変です!!:お医者さんの法律問題処方箋」(耕文社)、「弁護士13人が伝えたいこと~32例の失敗と成功」(日本加除出版)等。近時は相続案件、火災保険金未払事件にも注力。

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