亡くなった父親の葬式に現れた知人男性が、家族に無断で遺骨を食べてしまったーー。
遺族から弁護士ドットコムに相談が寄せられた。「このまま納骨するのは納得できません」と考えた相談者は、知人に賠償を求めたいと考えているという。
故人をしのび、その遺骨を食べる行為は、全国各地で風習として残るとされる。料理愛好家の平野レミさん、俳優の泉ピン子さんら芸能人にも、家族や世話になった人の遺骨を「食べた」と明らかにした人たちもいる。
関係者が納得していれば問題になることもないだろう。しかし、無断で遺骨を食べた場合、どんな法的責任が問われるのだろうか。
●泣き叫ぶ男性、感極まって遺骨を食べた
相談者によると、遺骨を食べたのは「故人に世話になった」と訃報を知ってやってきた男性だ。お通夜や告別式で泣き叫んだりするなど、故人への強い思いが感じられたそうだ。
親族らも、そこまでは男性の振る舞いを受け止められていたが、火葬場で骨壷に納めるときに骨を食べてしまったことまでは許容できず、その場から追い出したという。
男性の行動には、どのような法的問題が考えられるだろうか。僧侶であり、宗教に関する法律にくわしい本間久雄弁護士に聞いた。
●死体損壊等罪が成立しうる
——葬儀において家族らに無断で故人の遺骨を食べることには、どのような法的問題がありますか。賠償請求できるのでしょうか
刑法190条では、死体損壊等罪が定められています。
<死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する>
遺骨を食べる行為は、遺骨の領得(占有を取得する)にあたり、死体損壊等罪が成立すると考えられます。
遺骨を預かった寺院が、遺骨を別の骨壺に移す際に遺骨の一部を合葬処分したことについて、遺骨を寺院に寄託した者が寺院に損害賠償請求をした事件があります(横浜地裁平成7年4月3日判決)。
この判決では、次のような考えを示して、寺院に慰謝料20万円の支払いを命じています。
「人の遺骨は、一般社会通念上、遺族等の故人に対する敬愛・追慕の情に基づく一種の人格的法益として保護されるべきものであるから、これを扱う者に、宗教的慣習ないしは社会通念に照らして適切とはいえない面があった場合には、それは右の人格的法益に対する侵害として遺族等に対する不法行為をも構成する」(判決から)
他人が故人の遺骨を食べる行為は、遺族の敬愛・追慕の情を乱すものであり、遺族としては、遺骨を食べた人に対して、損害賠償を求めることができると考えられます。
——どんな思いがあって遺骨を食べるのでしょう
遺骨を食べるのは、故人に対する強い思いを抑えきれず、その発露としておこなうと思われます。しかし、これまで解説してきたように、刑法上の犯罪に触れかねませんし、ほかの参列者の感情を乱すことにもなります。その思いは、命日の墓参を欠かさないなど、別の方法で表していくべきでしょう。